熱帯雨林の現状と問題点

論文題目 熱帯雨林の現状と問題点

土居 龍人

~インドネシアの熱帯雨林減少問題を中心として~   

東ジャワのジャンブールの山奥に広がる熱帯雨林(本人撮影)

目次

はじめに  

  •  地球温暖化問題と森林-熱帯雨林の現状を理解する前提として-
  •  地球温暖化とは何か
  •  植物と地球温暖化
  •  温室効果ガスと温暖化
  •  窒素循環 
  •  光合成のメカニズム
  •  樹木による二酸化炭素の吸収
  •  植物の炭素固定能力 
  •  京都議定書
  •  京都メカニズム
  •  京都議定書と森林造林の関係
  •   熱帯雨林の役割と特徴
  • 森林とは何か

第2節   熱帯雨林とは何か

  •    熱帯雨林の特徴
  •    熱帯雨林の分布

第3章   熱帯雨林の減少

  • 森林減少の定義
  • 農耕地開発と熱帯雨林
  • 焼き畑農業と熱帯雨林
  • 商業伐採の増加と熱帯雨林
  • 熱帯林業の問題点

第4章   熱帯雨林と違法伐採

第1節   インドネシアにおける違法伐採

  • 伐採にかかわる規定
  • 違法伐採のメカニズム
  • 違法伐採にかかわるアクター
  • 違法伐採が行われる要因

第5章   インドネシア熱帯雨林地帯における森林火災

  • インドネシアの森林火災
  • インドネシアの森林火災の被害面積・被害総額
  • インドネシアにおける森林火災の背景と原因

第6章   インドネシアにおけるアブラヤシ農園拡大政策

  • アブラヤシの生産適地であるインドネシア
  • アブラヤシ需要の伸び
  • 森林プランテーション要地への転換政策
  • 森林の消失

第7章   熱帯林保全への取り組み

第1節   熱帯地域を含む世界各国の植林地面積の比較

第2節   森林認証制度と熱帯雨林の保全

第3節   産業植林の増加とその問題点

第4節   現地住民による植林意識の高まりと地方分権化に伴う植林政策

第5節   良質な「緑のダム」作り

第6節   南洋材と国産材の競争力の違いの原因

第7節   中国における大規模植林政策  -熱帯雨林の保全への先例として-

第8節   森林は保全すべきか、植林すべきか

第9節   熱帯雨林の保全がうまくいかない理由

終わりに

参考文献

謝辞

問題意識   

私は以前から熱帯雨林保全について強い関心を持っていました。私は中学校の頃から今に至るまで、登山が好きで奥多摩・丹沢・八ヶ岳・南アルプスなど、日本の山へよく足を運んできました。山の中で見る木々の美しさや、鳥のさえずり、虫の声、流れる雲、森の生き物たちの美しい姿、山にある自然の全てに魅了されています。また、私にとって森林は特別なものです。そこには、無数の生物の存在を感じることができます。私はその森林の保全のために、極東ロシアのハバロフスクでの植林や神奈川県の丹沢での植林、林業の業務などを行ってきました。それらの経験が、さらに自然の保全について深く考えていきたいと思う動機になりました。私は何度も植林活動の手伝いをしてきました。それは、その地域がより生物の多様性の豊かな森になってほしいという願いから行ったことです。しかし、私が本当に願う自然の姿というのは人の手が加わっていない有りのままの姿であり、豊かな生態系が保全されている状態の自然です。そのような自然を守るには、今ある天然の森林を破壊しないで保護していくしかありません。一度森林が破壊されてしまったら、たとえ植林をしても、もともとあった生物種の豊かな天然林に戻すことはすぐにはできないからです。

赤道付近に広がる森である熱帯雨林には、世界中の生物の50%以上が住んでいて、今までに見たこともないような多様な動植物が太古の昔から生き続けています。この熱帯雨林は地球上で最も豊かな自然が残されている場所の1つだと言えます。しかし最近、熱帯雨林の減少問題が新聞やテレビなどマスコミの話題としてしばしば取り上げられるようになってきました。このことは、私にとって非常にショッキングな出来事でした。そこで、私は熱帯雨林問題を卒業論文のテーマに選んでその現実の深刻さを理解したいと考えるようになりました。そのためには、どうしても現地調査を行いその現実に触れることが大切だと考え、2007年の8月~9月にかけてインドネシアでの現地研究を行いました。

本論文では、熱帯雨林の特徴、地球全体の熱帯雨林の役割、人間にとっての熱帯雨林の重要性などを、現地調査を交えて明らかにし、どのようにこの地球上の遺産を保護していくべきか、その方法と今後向かうべき熱帯雨林とのかかわり方を明らかにしていこうと思います。

            はじめに

 熱帯雨林の表面積は地球上の表面積のおよそ3%しか占めていない、しかし地球上で熱帯雨林は非常に重要な役割を担ってきた。熱帯雨林の主要構成要素である被子植物が繁栄した白亜紀中期以降温帯林が後退した氷河期にも生物多様性のピークは常に熱帯にあり続けた。熱帯雨林の中では複雑な生態系のシステムが成り立っており、地球上の生物種の半数以上が熱帯に生息しているといわれる。まさに生物の宝庫である。その圧倒的に多様な生物の存在する熱帯雨林は基本的に一年中気温が高く、降水量の多い地域にある。植物が生育するのに十分な量の太陽光と植物や動物が生息するのに十分な量の水分が存在する熱帯雨林は、生物が生息していく上で理想的に近い環境を提供している。それが、熱帯雨林で多くの生物が繁栄し生息していくことができた理由だと考えられる。

熱帯林は人間に様々な恩恵を与えてきた。最近では、膨大な遺伝子プールである熱帯雨林の植物や動物から人間にとって有用な様々な薬を得たり、科学的データを得ている。また、昔から熱帯雨林は、熱帯雨林に住む人々の生活を様々な形で支えてきた。熱帯雨林の中で暮らす人々にとって、熱帯雨林で育つ豊富な食料はなくてはならないものである。また、日々使う道具や服、家を作るための材料から、燃料に至るまで人々の生活のための糧の全てを熱帯雨林の中で得てきた。それは、いつしか熱帯に住む人々の文化とも強くかかわるようになった。しばしば熱帯雨林で暮らす人々の伝統的な風習や習慣の中に、熱帯林に住む精霊をたたえるものや、熱帯に住む特定の生き物を人々の力の象徴や畏敬の象徴としてまつりたてるなど様々な特有の文化が生まれていった。             

熱帯雨林は地球全体規模で見ても極めて重要なものである。特に今日、毎日のように叫ばれている地球温暖化問題を解決するにあたっても、熱帯雨林の有効な利用は極めて重要な問題である。CO2(二酸化炭素)は1つのC(炭素原子)と2つのO(酸素原子)を結合した分子構造を持っている。Cは炭素であり、これは植物が光合成をする際にCO2(二酸化炭素)を吸収し、O2(酸素)を排出し残ったC(炭素原子)を植物は幹という形で地表に固形化する。この作用によって大気中に過剰に存在するCO2(二酸化炭素)を陸上に個体の形で留め、温暖化にまったく影響しない形にCO2(二酸化炭素)の分布域を変化させている。地球上の二酸化炭素が異常に増加している現在、森林を増産し大気中の二酸化炭素を地表面に木の幹という形で固形化することは極めて重要なことである。しかし今日の二酸化炭素の増加は化石燃料の大量消費という問題を抜きには語ることができない。木を切り、燃焼すれば大気中に二酸化炭素などの炭素が排出される、しかし、そうして発生した二酸化炭素は、また植物が育てば植物が育っていく過程で大気中の二酸化炭素が木の幹として固形化させるので、大気中の二酸化炭素の量はプラス・マイナス・ゼロと考えることができる。しかし、遠い昔から地中深くに眠っていた石油や石炭を消費することで大気中に二酸化炭素が放出される場合は、一度木を切った所にまた木が育てば大気中への二酸化炭素の放出がプラス・マイナス・ゼロとなるような、森林伐採と再生による二酸化炭素の循環は成り立たない。よって、このまま石油や石炭の大量消費を続ければ、必然的に大気中の二酸化炭素は増加していくことになる。このような、大気中の二酸化炭素の増大に歯止めをかけるためには、大気中の炭素を、地表面に固定するしかない。大気中の炭素を固形化する最良の策は、今起こっている森林減少に歯止めをかけ、逆に森林を増加させていくことである。森林の増加は大気中の二酸化炭素の削減の他にも、木材資源の増産、生物多様性の促進、土壌流出防止、洪水防止、生物多様性の促進、など様々な良い影響を人間にもたらすと考えられる。

地球上では、先進国の森林は若干の増加傾向にあると言われている。では、どこの森林が減少し続けているかというと最も急速な形で森林が減少しているのは熱帯雨林なのである。減少し続けている熱帯雨林を回復させていくことは地球上の温暖化を解決するために非常に重要なことなのである。また、熱帯雨林の増加と木材利用を両立させるために、計画的な木材生産と植林、つまり木材を伐採した土地に計画的に植林をしていく必要がある。

熱帯雨林は経済的な価値を生産しているということもできる。熱帯は1年中温暖な気候であり、大量の降水量がある。そして、冬が存在しないことで土壌中のバクテリアの活性度が1年中高く、落ち葉や動物の死骸などの有機物はいち早く分解され植物の根から栄養として吸収される。このような、熱帯の特徴は、繁殖する植物の成長を急激に早め、他の気候帯の地域では見られないほどスピーディーに大きな木が誕生していく。これは木材資源を大量に消費する人々にとってとても望ましいものであり、チークやラワンなどの有用な熱帯雨林の植物は大規模な伐採が行われ多くの木々が熱帯雨林保有国内や国外で消費されている。これは木材が人々に与えている経済的利益といっていい。熱帯雨林の木々は、建築材、紙パルプ、燃料などとして世界各地で消費されている。

熱帯雨林の面積は年々減少し、このまま減少が続けば2030年には数十年前の熱帯雨林量の10%程度しか残らないであろうという予測すら出ている。このまま熱帯雨林の減少が続けば、熱帯雨林の砂漠化、洪水の多発化、遺伝子プールの減少による人間の利用できる資源の低下、世界的な生物種の減少、地球の温暖化、現地住民の文化の損失、食糧難、観光資源の消失など様々な問題が噴出することが予想できるのである。第1章では、地球温暖化と熱帯雨林の関係を論述する。第2章では、熱帯雨林の特徴を書き、何故熱帯雨林が守らなければならない貴重な自然なのかを論述する。第3章では、問題となっている熱帯雨林の減少の事を論述する。第4章は、熱帯雨林の減少の中でも特に日本とも関係があると思われる、違法伐採について論述する。第5章は、急激に増加しつつあり熱帯雨林減少の重大な要素になっている森林火災について論述する。第6章は、これも熱帯雨林の減少と関係のあるアブラヤシプランテーション栽培について論述する。第7章は、熱帯雨林の保全策などを論述しようと思う。

第1章

地球温暖化と森林

第1節 地球温暖化

南極ボストーク基地で採取された2546mの氷床コア中の22万年前からの二酸化炭素濃度の記録によると、地史レベルでは温暖化現象とは一時的な二酸化炭素上昇とそれに伴う気温上昇をいう。ハワイ島マウナ・ロア観測所では1957年から大気中の二酸化炭素濃度がモニタリングされている。それによると、毎年約1.5ppmV上昇し、現状では、21世紀後半には現在の約2倍の700ppmVに達することが予測されている。産業革命以降の変化が急速で、生物の適応力がその速度に追いつかないことが懸念される。[1]

第2節 植物にとっての地球温暖化

現在起こっている地球の温暖化は光合成作用の基質である二酸化炭素が大気中で増加することで引き起こされているので植物にとっては歓迎すべきことのように思える。また地球の温暖化は中高緯度地帯にとっては生産期間の延長が予測され、歓迎できる現象である。しかし、植物は不足する栄養塩[2]の量で植物の成長は規定されるので、二酸化炭素が増加しても直ちに植物の成長に直結しないことも予想される。また、光合成産物の生産と消費(ソース・シンク)のバランスから成長が大きく規定されるので、二酸化炭素増加による温暖化が進行しても直ちに成長の増加に結び付かない事も考えられる。[3]

大気中の二酸化炭素濃度の上昇に伴って植物の成長や土壌環境は変化し、二酸化炭素施肥効果が顕在化する。これと同時に、大気の大循環なども影響を受けて、降水量やその季節変化が大きく変わり、温室効果が顕在化する(直接効果)。これらの環境の変化を通じて、植物―土壌・微生物系の反応にも影響が出る(間接効果)これらの関係は相互に関係し合っている。

第3節 温室効果ガスと温暖化

地球が吸収した太陽からの短波のエネルギーは、最終的には地球から長波として宇宙空間に射出される。大気は太陽からの短波放射をかなり良く通過させるが、同時に地球表面からの長波放射をよく吸収し放射する。長波放射を吸収・放射するのは、雲の液体状の水、水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロン、オゾンなどである。これらのガスは温室効果ガスと呼ばれている。温室効果ガスにより大気の長波の吸収が増加すると大気から地面への長波放射も大きくなる。このために地表面が受けるエネルギーは増加する。放射の出入りが地球全体としてつり合うまで、地表の温度は上昇する。これが地球温暖化の原因である。[4]

なお、実際の温暖化への貢献度を見ると、気体の中で水蒸気が最大の役割を果たしており温暖化貢献の90%である。ただし、人間が追加で生じさせている水蒸気は、海からの蒸散に比べてわずかであり、またそのわずかな分も自然の水循環に戻るので、人間の使用する水によって温暖化が促進されるとは考えられない。熱を吸収するガスのうち、人間が追加で放出しているものの60%を占めるのは二酸化炭素であり、人口温室効果ガス別の気候変化に及ぼす影響は、順に二酸化炭素60%メタン20%一酸化二窒素6%ハロカーボン14%となっている。これをみると、人間による二酸化炭素の排出が地球温暖化に深刻な影響を与えていることがわかる。人間による二酸化炭素排出の約80%が石油、石炭、天然ガスの燃焼から生じる。残りの20%は、森林消失などによる。また放出された二酸化炭素の55%ほどは海によって吸収され、残りの大部分を植物発育の促進により吸収している。今の現状では二酸化炭素濃度は産業革命前から現在までで、31%上昇している。[5]

過去の地質時代には、現在よりも大気の二酸化炭素濃度がはるかに高い時代があった。この高濃度の二酸化炭素が大気に存在していた時代の気温は、現在よりも高かった。地球の温暖化が現在問題になっているのは、温室効果ガスの蓄積及び温度上昇の速度が、過去の地質時代に起こった変化に比べて著しく速いためである。[6]

第4節 窒素循環

 地球規模の科学的な循環には窒素循環がある。植物の成長には窒素が必要であり、大気中で最も豊富な気体が窒素である。しかし、ほとんどの植物はそのままの形で窒素を使うことはできません。マメ科植物など限られた植物は大気中から窒素を取り入れ、その形を変化させて成長に利用することができます。これらの窒素固定植物も実は自分自身で直接窒素を固定するわけではなく、その植物の根の周辺に群生する微生物の助けを借りて窒素固定ができる。こうした植物は枯れた後に微生物の働きで分解されることにより、土壌中に窒素が排出され土壌は肥沃になります。そして、窒素固定能力を持たない他の植物に優れた栄養が供給されるのです。また、窒素は動物の遺体の分解や動物の排泄行為によっても土壌に排出されます。稲妻も窒素固定の作用を持ちます。現在の土壌中の窒素の量は人間が肥料として土にまいたものが自然の過程によって固定された窒素量を上回ります。土壌に放出された窒素はバクテリアの活動によって窒素酸化物に変えられます。こうした窒素酸化物が大気中に放出されると強力な地球温暖化ガスとして作用します。[7] 肥料の撒きすぎによる窒素酸化物の増加も地球温暖化を促進しています。

第5節 光合成のメカニズム

光合成は光をエネルギー源として、水を分解して酸素を発生し二酸化炭素から糖を合成する代謝経路である。これは、植物の炭素骨格・エネルギー源を供給するほぼ唯一の経路である。光合成速度は環境条件の影響を大きく受け、植物の種内・種間でも異なる光合成速度がみられる。この様な光合成速度の多様さは、植物の生存・成長・繁殖の多様さの原因の一つである。光合成をおこなう最小の単位は葉緑体であり、高等植物は細胞の内に多数の葉緑体を持ち、光合成をおこなっている。[8]

第6節 樹木による二酸化炭素の吸収

樹木による二酸化炭素の固定には、エネルギー生産のための呼吸による二酸化炭素の放出を伴うが、固定された「材」の量から二酸化炭素蓄積量を推定できる。光合成作用は、光エネルギーにより二酸化炭素と水から炭水化物を合成する反応であり。次の式であらわされる。

6CO₂+12H₂O→C₆H₁₂O₆+6H₂O +6O₂

このうちグルコース(C₆H₁₂O₆)は、大部分が木材の主要成分であるセルロース(C₆H₁₀O₅)nであり、計算上264gのCO₂から162gのセルロ-スができる(樹木の固定するCO₂量は純生産量(材部+葉部)×264/162である)樹木は木部1kgを作るのに1.6kgのCO₂を吸収し、約0.4kgの炭素を固定する。純生産量の大きな樹種が、CO₂固定量も大きいことになる。しかし、固定したCO₂を蓄積する部分は主に幹である。この比重が樹種により異なるため、同じ材積であっても蓄積しているCO₂量に違いが出る。ちなみに木材中の炭素量は約50%である(木材の主要成分、セルロース、へミセルロース、リグニンの構成比は針葉樹と広葉樹ではやや異なるが50%、20~25%、20~35%である)。概して光合成速度が高く生長の早い樹種の材は比重が小さく、遅い樹種では比重が高い(針葉樹の比重を0.4、広葉樹を0.6とする)。一方森林調査簿からは、森林の炭素蓄積量を以下の式で推定する。

炭素蓄積量=幹材積×拡大係数×容積密度×炭素含有率[9]

第7節 植物の炭素固定能力

1997年12月、京都にて採択された気候変動枠組約3回締約国会議(COP3)では、全CO₂排出量から森林のCO₂固定能力を差し引いた量を各国の排出可能量とするネット方式が採択された。日本は1990年当時の推定1.233百万tのCO₂の排出に対して、6%分の排出削減をしなければならない。そして6%の排出削減の一部を森林の固定能力に期待し、2012年までに実行することを公約した。日本の森林が蓄積する約14億トンの炭素は、化石燃料からの排出量の4年分と見積もられている。植林のピークは1960年代であり1990年までの生長量により、排出量の8%に相当する年間2300万tの炭素が固定された。日本の主要造林樹種であったスギとトドマツの年輪構成は、現在35年生付近にピークがある。しかも近年では新植地が減少しているので、人工林の炭素固定能力には大きな期待ができない。しかし、森林の役割は固定したCO₂を貯留する点にある。葉群(樹冠:クラウン)を支える幹は、枝を介した支持器官であり年々肥大生長する、いわば巨大な炭素貯蔵庫である。人工林のような一斉林の若齢期はCO₂固定能力が高い。しかし、木は加齢すると非光合成器官である幹、枝、根などの呼吸によるCO₂の排出量が光合成によるCO₂の吸収量を上回り、木はCO₂の放出源となる。少なくとも人工林には単位面積当たりのCO₂固定がピークに達する林齢がある。[10]

森林が単位時間、単位面積当たりに固形化した炭素総量のことを総生産量という。この量は気温が高く降雨量が多いほど大きくなる傾向があり、熱帯雨林では年間120tを超える総生産量をあげている。一般に暖温帯林や亜寒帯林は20~50t程度の総生産量であると言われている。一方、呼吸量も高温になるほど高くなる。呼吸量は熱帯で年間20~25t、暖温帯で12~24t、冷温帯で5~11tと総生産量の開きほど地域による違いは大きくない。このことは熱帯雨林が他の地域の森林に比べて二酸化炭素の固定化能力に優れていることを物語っている。熱帯雨林の森は垂直方向に下層を形成する植物から、上層を形成する植物まで全部で五層の層状構造をもっています。温帯林では2~3層の構成ですので、熱帯雨林はこの点で大きな違いがあります。温帯林の樹高が20~30mであるのに対し、熱帯雨林では70mにもなる。そのため単位面積当たりの幹の体積が日本のブナ林の2倍になり、炭素の貯蔵も単位面積当たり2倍になります。さらに熱帯雨林は1年を通して気温が高いため、温帯地域の2倍以上の酸素の生産力があります。

気温が高いことは森の中のいろいろな生理活性、化学反応を速めている。落葉・落枝として土壌の表面に堆積する有機物の量は熱帯雨林の場合1haあたり約4tである。これは亜寒帯林の約55tに比べて10分の1以下である。熱帯雨林では落葉量が多いにもかかわらず落ち葉の分解スピードが極めて速いために、分解された落ち葉の栄養素はすぐに木々によって吸収されていく為、土壌中に有機物があまり蓄積しない。土壌表面と土壌中に蓄えられている養分量と生きた植物体に含まれる養分量を比べてみると、亜寒帯、暖温帯では土壌中に養分が蓄えられており、熱帯では植物体の幹の中に養分が蓄えられている傾向がみられる。このことは熱帯における生物諸過程が急速に進むことを示している。

熱帯地域における森林の伐採は養分量の大きな部分の持ち出しになる。[11]このことが熱帯雨林の伐採が他の地域に比べて森に重大な影響を与えてしまう大きな要因である。

 炭素の増加量と排出量の差39億tは海洋と陸上植物によって吸収されています。このうち約半分が陸上の植物が吸収しています。森林の中でも熱帯雨林が占める割合は5~6割といわれています。「地球の肺」「酸素ボンベ」といわれる緑豊かで成長力が旺盛な熱帯雨林がなくなれば、この森が抱えていた二酸化炭素が大気中に放出されることになり、地球上の炭素と酸素の循環サイクルがますます悪くなります。これは炭素と酸素の「循環設備」と「貯蔵庫」を一緒になくすことを意味します。二酸化炭素を最も効率よく吸収する熱帯雨林を再生することが地球温暖化の抑制のために非常に重要なことなのです。[12]

第8節 京都議定書

日本国の温室効果ガス全体の基準排出量(基準年総排出量)は12億3700万t(二酸化炭素)であり。6%削減約束を達成する為には年平均総排出量を年間11億6300万t(二酸化炭素)に削減することが必要である。2002年度の日本国の温室効果ガス総排出量は13億3100万tで基準年比で7.6%の増加となっており、削減約束との差は13.6%と広がっている。非エネルギー起源二酸化炭素、メタン、一酸化窒素、代替フロン等3ガスについては削減が進んでいる。しかし、日本国の温室効果ガスの排出量の9割程度を占めるエネルギー起源二酸化炭素の排出量が大幅に増大した(2002年度で基準年総排出量比10.2%増加)。二酸化炭素排出量の約4割を占める産業部門、約1割を占める運輸部門(貨物自動車及び公共交通機関等)からの排出量はほぼ横ばい。約2割を占める業務その他部門、約1割をしめる家庭部門、約1割を占める運輸(自家用乗用車)部門からの排出量が増大したことがあげられる。また、原子力発電の停止といった特殊な要因も影響している。

 しかし、削減目標も一部の国だけが実施してもその利益を享受するのはすべての国であるという点から、多くの国の参加が重要になる。[13]

京都議定書の対象ガスの地球温暖化係数及び主な発生源

地球温暖化係数が大きいほど強力な温室効果ガスである。二酸化炭素は他の強力な温室効果ガスに比べれば温室効果は小さいが、その排出量が圧倒的に多いため、二酸化炭素が地球温暖化の最も大きな原因であると考えられる。

・エネルギー起源二酸化炭素 1(地球温暖化係数)

燃料(灯油・ガスなど)の燃焼により発生、化石燃料により得られた電気等の消費も間接的な排出に入る。

・非エネルギー起源二酸化炭素 1

工業過程における石灰石の消費や、廃棄物の焼却処理等において発生。

・メタン 21

水田や廃棄物処理場における有機物の嫌気性発酵等において発生。

・一酸化ニ窒素 310

一部の化学製品原料製造の過程や家畜排泄物の微生物による分解過程等において発生。

・ハイドロフルオロカーボン類(HFC) 1300

冷凍機・空調機器の冷媒、断熱材等の発泡剤等に使用

・パーフルオロカーボン類(PFC) 6500

半導体の製造工程等において使用

・六フッ化硫黄(SF6) 23900

マグネシウム溶解時におけるカバーガス、半導体等の製造工程や電気絶縁ガス等に使用。

  • 京都メカニズム

京都議定書の第1約束期間における削減約束に相当する排出量と同期間における実際の温室効果ガスの排出量との差分については京都メカニズムを活用する。(各種対策の効果を踏まえた各ガスの排出量見通しを踏まえれば、差分は基準年総排出量比1.6%となる)[14]

森林は、その数ある機能の中でもとりわけ、地球炭素循環において中心的な役割を果たします。森林は炭素の主たる貯蔵庫であるとともに大気中の炭素を除去しています。その除去量は10¹⁵グラムであり、人間活動による炭素の排出量の14%に相当する。二酸化炭素による温暖化が今最も問題になっている以上、炭素の固定に最も効果的である森林の拡大を図ることは極めて重要なことである。

第10節 京都議定書と森林造林の関係

 今地球の温暖化が世界規模の環境問題として認識されるようになっている。しかし、人々の意識だけではなかなか温室効果ガスの削減に向けた動きは進まない。二酸化炭素に代表される炭素は、大気に排出しても排出した本人にはほとんど何のデメリットもない。また、植林などをしていくら大気中の二酸化炭素を森林に吸収させてもそのことで何のメリットも得ることができなかった。温室効果ガスを削減する為には温室効果ガスを削減した事に対して、何らかのインセンティブを作る必要がある。温室効果ガスを削減すればメリットを、温室効果ガスを排出すればデメリットを与えるような仕組み作りが求められていた。そこで、京都議定書の下で取引可能な炭素排出許可証を発行することによって、炭素の排出、炭素の削減に対して価格を設定することができるようになった。これは、今後の世界規模の温室効果ガス削減に向けて非常に重要な意味を持つことになる。今後、二酸化炭素を排出する事業体は、炭素排出許可証がなければ炭素を大気中に排出することができなくなる。この、炭素排出許可証の発行数は決められており、それをこえて炭素を排出することはできない。また、規定以上の二酸化炭素を排出することになれば、これまでは無料であった二酸化炭素の排出が有料となることになる。その結果、各国は決められた量の二酸化炭素しか排出できないので、炭素の排出を削減することになる。1tの炭素を排出する権利を持つ証券を買う価格よりも1tの炭素の排出を削減した方が、かかる費用が安ければ企業は1tの炭素の排出を削減する方向に動くだろう。また、1tの炭素を排出する権利を持つ証券を買う価格よりも1tの炭素の排出を削減した方が、かかる費用が高ければ企業は1tの炭素の排出する権利を持つ証券を買う方向に動くだろう。この時、1tの炭素の排出を削減した企業は、1t分の許可証券が余ることになる。また、1tの炭素の排出を削減するのに高い費用がかかる企業は、排出許可証権を買いたいと思う。この時、許可証が余っている企業から許可証を必要としている企業に許可証の売買が行われることになる。京都議定書により二酸化炭素の排出権が売買できるようになるので、各企業体は積極的に炭素の排出を削減しようと思うはずである。ここで、排出許可証権の価格は、各企業体の炭素排出削減技術にかかる費用の平均値に近い価格へ近づくことになる。[15]

京都議定書に書かれた重要なシステムには、先進国同士において、相手国で温室効果ガスの排出量を削減した場合にその削減分を自国で使える制度である共同実施(JI)と先進国が発展途上国に対して温室効果ガスの排出量を削減した場合にその削減分を自国で使える制度であるクリーン開発メカニズム(CDM)と呼ばれるものがある。[16] 

クリーン開発メカニズム

この論文にとって重要になってくるものはこのクリーン開発メカニズムである。このシステムは、途上国で温室効果ガスの排出量を削減した場合にその削減分を自国で使える制度である。[17] また、この制度は途上国で植林活動をすることで吸着した二酸化炭素も自国で削減した二酸化炭素としてカウントできる。このメカニズムは、発展途上国が1990年以前は森林でなかった土地に1990年以降造林した森林が2008年~2012年の間に吸着した炭素分もクレジットを要求することができる。これは京都議定書が森林の最も価値ある機能である二酸化炭素の固形化に関する市場をもたらすものである。この制度には2つの大きなポイントがある。1つめは、炭素排出許可証券の価格です。これが、炭素吸着の市場価格を決めます。もう1つは森林造林による炭素吸着費用です。森林造林による炭素吸着費用が炭素排出許可証券の価格よりも安ければ、森林造林による炭素吸着は十分な競争力があるということができる。もし、森林による炭素吸着費用が炭素排出許可証に対して十分な競争力を有していれば、世界規模の森林造林が期待できる。森林による炭素吸着費用の決定要因としては、単位土地面積当たりの炭素の吸着量がどれぐらいあるかという事と、その土地で他の土地利用をした時との利益率です。まず、単位土地面積当たりの炭素の吸着量ですが、これを正確に測ることはなかなか難しい問題です。森林による炭素の吸着は幹に固定されるだけではなく、葉などに含まれた形で落葉して土として大地に固定されていくものもあるからです。もう1つの他の土地利用との競争力ですが、例をあげると、放牧、田園、果樹園、コーヒー栽培などさまざまな土地利用が考えられます。もしも、放牧、田園、果樹園、コーヒー栽培などの土地利用をした方が森林を造林して排出権を獲得する事よりもより利益を得ることができれば、人々はその土地で造林をすることはないでしょう。

そう考えると、その土地で最も利益を得ることができる土地利用を考えて、その土地の価格が決まってくる。森林造林による排出権の獲得が、他の土地利用に対してどれだけの競争力を持つかは、その土地や場所、国によって変わってくると思われる。[18] それでも、森林造林による炭素吸着が、二酸化炭素の吸着として市場価値を持つということは、今後の森林保全、森林造林ということを考える上で、重要な第一歩である。また炭素吸着機能を考えた場合に、熱帯雨林は炭素吸着機能という面でとても優れているため、炭素吸着の為の造林は熱帯地域を中心に行われる可能性が高く、京都議定書のクリーン開発メカニズムが今後の熱帯雨林の造林運動を促進することを期待したい。

動き始める排出権取引(EUの事例)

二酸化炭素に値段がつき株のように取り引きされる京都議定書の約束機関が2008年1月に始まった。欧州で取引初日となった2008年1月2日の初値は、1t当たり22.5ユーロ(約3700円)だった。暖かな冬は電力消費が抑えられるため、排出権の値は下がる。欧州連合(EU)がCO₂排出規制の強化策を打ち出すと需要増加を見込んで価格が上がる。2008年から、EU域内の工場や事業所1万1千を対象に、CO₂の排出量の上限を割り当て、その枠を超えた場合は1t当たり100ユーロの罰金が科せられる。排出枠より多い会社は罰金を避けるために他の排出権を買い、逆に排出を枠以内に抑えられれば、余った分を売ることができる。石炭は安価だがCO₂を多く排出する。天然ガスは高価だがCO₂の排出量が少ない。安価な燃料を使って排出権を購入した場合と高いけれどもCO₂の排出が少ない燃料を使った場合とでどちらが安くつくかを計算することになる。京都議定書の実行によって、2008年は経済が環境を軸に回り始めた記念すべき年となった。[19] 

日本の場合

京都議定書で1990年比6%削減義務を負う日本は、1.6%分をクリーン開発メカニズムなどの排出権購入でまかなう計画である。2008年に日本政府はNEDOを通じて308億円分の排出権を購入し、電力や鉄鋼業界が1億6000万t余りを購入する。日本の二酸化炭素排出量は増え続けており、世界最高レベルの省エネ技術を持つ日本にとってさらなる省エネ技術による削減は難しい。今後日本は京都議定書の約束機関である2012年までに大量の排出権を購入していかなければならない可能性がある。しかし、日本には国内に二酸化炭素の排出権を売る市場がなく、外国から排出権を買うばかりである。[20]これでは日本は二酸化炭素の取引による負担が増えるばかりである。物を作って輸出することで、国をなりたたせている日本にとっては二酸化炭素を排出せざるをえず、厳しい状況である。しかし、日本がCDMやJIによって排出権の購入を森林の造林によって行えば、世界の森林の増加に多大な影響を与えることができる。森林の造林は二酸化炭素の吸着以外にも様々な利益があるので、環境途上国への省エネ技術の提供による二酸化炭素の削減よりも有利な条件で行われるべきであると私は思う。

第2章    

 熱帯雨林の役割と特徴

  • 森林とは何か

熱帯雨林の特徴を書く前に、森林とは何かを簡単に記述しておこうと思う。

緑色植物のなかでも毎年肥大生長を営み、木化する多年生植物を樹木と呼ぶ。多くの樹木は年々大きくなり、幹をはじめ巨大な貯蔵器官をもつ、この樹木の集団を「森林」と呼ぶ。[21] 2000年度におけるFAO/UNEP(国連環境計画)の世界森林評価プロジェクトにおいては、「森林は5m以上に達する樹種によって土地の10%を超える樹冠投影面積を持つことが当然視される樹木が0.5ha以上に渡って存在し、しかも他の土地利用目的を持たないものを言う」と定義されている。[22] 

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のグット・プラクティスガイダンスにおける「森林」とは、植林、再植林、森林破壊の内容を規定するため、「樹冠率の閾値」を定義して森林を決定している。IPCC特別報告書によると、高い閾値の濡冠率などが用いられる場合は、樹木がまばらである樹林地の多くは「森林としてカウントされない」低い閾値が設定された場合、密集した森林が大幅に減少しなければ森林破壊として検知されず、結果として大量の炭素が放出されることになる。「森林の劣化・回復」「伐採から再生」をどのように定義してとりあつかうかも、カーボンアカウンティング(炭素吸収・排出権をカウントする方法)に関連した重要な決定事項である。[23]

また、熱帯雨林の定義は、「熱帯地方に存在し、年間を通して雨が多く、乾期の短い地域の森林のことを指す。」[24]と宮崎林司は述べている。

第2節 熱帯雨林とは何か

熱帯雨林とはもともと地球上の植物群落の区分と気候区分を考える上で、ある景観に与えられた名前である。森林は生物、土壌、気候の相互作用系として歴史的な産物である。主として景観によって植生タイプを区分するフォーメーションをとっても、熱帯では数十のタイプを区分することができる。植生タイプごとに森林面積を調査して熱帯アメリカでは40以上の、熱帯アフリカでは77の区分をした例がある。[25]

1903年にドイツの植物学者であるA・F・W・シンパーは、著書「生態的な基礎に立つ植物地理学」で、熱帯雨林という言葉を初めて使った。と、湯本貴和は、熱帯雨林(1999)の本の中で書いている。熱帯雨林は地域によって構成する植物は異なるが、一年中葉をつけたままの常緑広葉樹によって構成され、最低でも30mの高木からなり、木本性や草本性のつる植物と、着生植物が非常に多いという特徴をもつ熱帯域[26]にある森林である。[27]

A・F・W・シンパーは、ある一定の規則に沿った景観を持つ森林を熱帯雨林と定義した。その定義が本当に正しいのか、私は2007年の夏にインドネシアのジャワ島東部ジャンブール近くにある熱帯雨林を地元の森林管理局の方の特別な許可をもらって調査した。その時に見た森は30m~40mの高さの常緑広葉樹と10m~20mほどの高さの木々が入り混じる森であった。また、つる植物や寄生植物が大木をつたい天高く伸び、到る所に寄生植物がみられた。また、大木に至っては板根と呼ばれる板状の根を持っている木が多くあった。太さや高さにおいては、日本の温帯でみられる木よりも、太く高い木々が数多くあった。特に、私が西ジャワにあるボゴールの熱帯植物園を見学に行った時に見た木々の幹の太さと樹高の高さには圧倒された。このことは、私の見た熱帯雨林とA・F・W・シンパーによる熱帯雨林の定義が一致したことを意味している。

熱帯雨林では木性のつる植物が繁茂し、小径木から巨大木までを絡めるように巻きついている。このため高さ60mを超すような巨大高木が倒れると、その下敷きになった樹木を押しつぶすだけではなく、つるで連結された樹木も引き倒し、30~40m四方が枯木のやまとなる。この様な空き地に次の代の稚樹が一斉に育ってくる。この様な倒木による森林の破壊と再生は、森林のいたるところで見ることができる。この為、熱帯雨林は倒木後の空地と成熟した林相とがモザイク状に入り混じった森林である。これに対し森林が皆伐され、地表面が攪乱された場所では一斉に樹林が生育してくるが、もとの原生林の樹種とは全く違う陽性樹である。注意深く伐採すれば伐採跡は自然倒木の場合と似たような状態に保つことができる。[28]

第3節 熱帯雨林の特徴

熱帯雨林には他の温帯地域、寒帯地域の森と違った様々な特徴がある。熱帯雨林の木には、板根という特有の根をもった木が多いこと、そこに生活する生き物たちも特有の進化を遂げていることなど熱帯雨林には他の森にはない様々な特徴が存在する。この節では熱帯雨林の特徴について説明しようと思う。

 熱帯雨林とは「一年中ほとんど水不足がないところに成立する熱帯の森林」である。と湯本貴和が書いているように、熱帯雨林の形成される地域は1年を通じて非常に降水量が多く1年中気温の変化がほとんどない。厳密に言うと、熱帯雨林の定義では、1年を通じての気温の変化である年較差が、1日の変化である日較差と変わらないというのが熱帯気候の定義である。[29]

平均的な例でいえば、1日の平均気温は28℃前後で季節変動はほとんどないが、1日の気温は23℃~31℃でこの温度変化は季節変化よりも大きい。[30]

また、他の定義としては最寒月の平均気温が18度以上であること。などが言われている。つまり、熱帯には日本のような四季はない。しかし、多くの熱帯雨林では、雨の多い時期と少ない時期がある。つまり乾期[31]と雨季がはっきりしている。これは、地球の自転軸の傾きから生じる現象である。南アメリカやアフリカでは年2回の雨期があり、アジアではヒマラヤ山脈が気団をせき止めるために生じるモンスーンと呼ばれる年1回の雨期がある。[32]

具体的な例をあげると中米パナマからコスタリカにかけては、12月から4月にかけてほとんど雨が降らず、多くの木が落葉する。バンコクでは11月から4月までが乾期で、雨は夏に降る。マレー半島からスマトラ、ボルネオにかけての東南アジア島嶼部は、月平均降雨量からみると乾季が存在せず、世界的に見ても得意な地域である。この原因は、地球の自転により28℃以上の温かい海水が西太平洋にたまっており、ここからチベット高原に吹き込む風がこの地域に大量の降雨を1年中もたらすからである。[33]この地域の乾季はエルニーニョ南方振動により平均4年~5年の周期によるもので、東南アジア島嶼部で雨が降らなくなる。エルニーニョが起こると、普段西太平洋にたまっている温かい海水が中部太平洋に移動し雨域が東に移動してしまう。エルニーニョの周期は変異が大きく、乾燥の期間や降雨量の減少程度も様々で予測しにくい現象である。今世紀最大と言われる1982年~1983年にかけてのエルニーニョのとき、ボルネオ東部では8ヵ月間、降雨量が普段の10%までおち、熱帯雨林で大規模な山火事が起こった。この地方のエルニーニョに次ぐ周期は二年周期のモンスーンである。モンスーンはインド洋や太平洋からチベット高原に向かって吹く季節風である。冬にチベット高原の積雪が多いとその夏のモンスーンは弱まり、降雨量も減少する。モンスーンの強弱は2年ごとに入れ替わる、したがってエルニーニョが起こりモンスーンが弱まった年、東南アジア島嶼部の降雨量が最も減少する。[34]

 また、温帯地域や寒帯地域との違いとして、熱帯では降水の強度が極めて強い、このため裸地では降水による土の流出が激しい。熱帯の土は表層から30cmまでにほとんどの養分が含まれているため、一度表層の土が流されてしまうとそこに森林が回復するのに果てしない年月がかかることになる。森林の減少は、森林土壌による保水能力や蒸発散による大気への水の供給を減少させ、気候の乾燥化、水不足、森林再生能力の劣化を促進し、さらなら森林減少、ひいては森林消滅、砂漠化の原因となる。

熱帯雨林の3次元構造

大半の温帯林の樹高がせいぜい20m台なのに対して、熱帯林は70mをこえる。[35]しかし、高さとしては北アメリカのダグラスモミやセコイヤの100mに達する針葉樹林には及ばない。また、被子植物で元も背が高い木は、オーストラリアのユーカリでやはり100mをこえる。森林の上層から下層に至る葉や幹の垂直的な配置は、一本一本の木を輪切りにして、高さごとに幹や枝、葉の重さと葉の面積を測定する方法によって明らかになった。[36]

インドネシアのボルネオ島の混合フタバガキ林の例を書いてみる。この森では高さ55~65m、40~45m、20~25m、5~10m、0~1.3mに葉の重さと、葉の表面積が大きい層がある。このことは、この森林に五層の葉群がみられることを意味する。また、地上からの高さが低いほど薄い葉になることが分かっている。ここでみられた五層の葉群は、突出木層、高木層、亜高木層、低木層、林床層と呼ばれることが多い。突出木は、樹高60~70mに達する巨大な高木で、他の高木から頭一つ飛びぬけて高い。その下に閉鎖した高木層、あるいは林冠部が位置している。さらにその下に亜高木から低木に至る層が存在するが、突出木層や高木層に比べ、これらの層は連続的であり区分が不明瞭である。西スマトラの調査では10~20mの層で最も葉の密度が濃いという結果が出ている。しかし、アジアでは突出木が散在していたり、高木が倒れて林冠部があいている地域があったりと水平方向に際立ったばらつきがある。[37]

樹高の高い常緑広葉樹の茂る熱帯雨林では林床まで届く光の強さは全体の数%で、90%以上の光エネルギーは森林の表面で吸収あるいは反射されてしまう。そのため、林床には弱い光を使って光合成して生活するごくかぎられた草本性植物しかいない。高木になれない多くの小さい植物は、高木の幹や枝に着生して生活する。着生植物は、高木から栄養を盗む寄生植物ではなく、ただ場所を借りているだけである。[38]

私の2007年夏のインドネシアでの現地調査でも高木の幹を這うように伸びるつた植物や、高木の幹に直接根を果て光合成をする着生植物をいたるところで確認できた。

第4節 熱帯雨林の分布

地球上の全表面の3%を熱帯雨林がしめる。[39] 地球上には、三大熱帯と呼ばれる三つの大きな熱帯雨林のブロッグが存在している。最も広大なブロッグは、南アメリカ大陸のアマゾン川・オリノコ川流域からアンデス山脈山麗、エクアドルとコロンビアの太平洋岸からカリブ海沿岸に広がっている。その面積は400万km²に及び、豆の仲間やクワ科の植物が優先する林である。ブラジルの大西洋岸に帯状に分布していたが、現在ではほとんど破壊しつくされたマタ・アトランティカと呼ばれる森林も含まれる。カリブ海に浮かぶ島々にも熱帯雨林はある。[40]

第2のブロッグが東南アジアでインド・スリランカからインドネシア、ニューギニア、オーストラリアにわたる地域で、250万km²の熱帯雨林があるとされる。中心はボルネオ島、スマトラ島などのマレー群島で、大陸部には、マレー半島からミャンマー、タイなどのインドシナ半島、さらにスリランカとインドの西ガーツ山脈に及ぶ。オーストラリアの北東部から東部にも帯状の雨林が分布する。マレーシアではフタバガキ科の高木が優先する地域が多い。ソロモン諸島などのメラネシア、パラオ諸島やモーリシャス諸島などのミクロネシアにも熱帯雨林は点在する。[41]

 最後は、アフリカ大陸のブロッグで、サハラ砂漠以南の中央アフリカから西アフリカ、コンゴ川流域からウガンダにいたる地域と、大西洋に面したギニア湾岸で180万km²である。中南米と同様、豆の仲間が優先する森林が多い。マダガスカル島、モーリシャス島、セイシェル諸島などのインド洋の島々にも熱帯雨林が分布している。南アメリカ大陸やその周辺とアジア・アフリカの熱帯林はかなり生物相が異なるため、前者を新熱帯、後者を旧熱帯と呼ぶ場合がある。[42] 世界の森林を生体区分に従って分類すると、熱帯林が47%、北方林が33%、温帯林が11%、亜熱帯林が9%となる。

ジャンブールから1時間ほど車で走ったところにある熱帯雨林 2007年9月8日 本人撮影

熱帯雨林の中は多くの葉が光をさえぎるように広がっている 2007年9月8日 本人撮影

ジャンブール近くの熱帯雨林で見つけた植物。直径1m50cm近い 2007年9月8日 本人撮影

ジャンブール近くの熱帯雨林。他の木の幹に絡みつくように生える木 2007年9月8日 本人撮影

インドネシア、西ジャワのボゴール市内に生える木 2007年9月2日 本人撮影

インドネシアのボゴール熱帯植物公園内の木。大きな板根を持っている 2007年9月2日 本人撮影

ボゴール熱帯植物公園の板根を持つ木。前ページの木とは種類が違う 2007年9月2日 本人撮影

ボゴール熱帯植物公園内の板根を持つ木。ツタ植物が絡み付いている 2007年9月2日 本人撮影

ボゴール熱帯植物公園内の板根を持つ木。 2007年9月2日 本人撮影

ボゴール熱帯植物公園。ツタの絡まった木々が多くある 2007年9月2日 本人撮影

ボゴール熱帯植物公園。木の幹にそってツタが伸びている途中 2007年9月2日 本人撮影

ボゴール熱帯植物公園。木に無数のツタが絡みつきうっそうとしている 2007年9月2日 本人撮影

第3章  

熱帯雨林の減少 

第1節 森林減少の定義

 森林減少について考える前に、まず森林減少とはどのようなことなのか、その定義から入ろうと思う。第1章でも述べたように、2000年度におけるFAO/UNEP(国連環境計画)の世界森林評価プロジェクトにおいて、森林は5m以上に達する樹種によって土地の10%を超える樹冠投影面積を持つことが当然視される樹木が0.5ヘクタール以上に渡って存在し、しかも他の土地利用目的を持たないものを言う。と定義されている。つまり、森林減少とは「樹冠の投影面積が10%以下の土地利用の変化」と定義することができる。しかし、熱帯雨林での伐採では、目的となる樹種は一部の限られた樹種に限定される場合が多い。多種多様な樹木からなり種別の森林密度がきわめて低い事が特徴の一つである熱帯雨林という森林においては、熱帯雨林内での森林伐採の多くが森林減少として把握されないという現象を引き起こす。また、皆伐を行ったとしても、幼木が残されていたり、切り株から芽が萌えでてそこから再び(2次林として)成林することが期待できるのならば、これも森林減少にはならないことになる。FAOでは、森林のいくつかの樹種の伐採などの森林の質の低下も無視するのではなく、劣化と呼び、森林減少と区別している。[43] 

森林から非森林に変わる森林減少は、1990年代には年平均1460万ヘクタールであったと推定される。天然林面積の減少が1610万ヘクタールあったが、そのうちには天然林伐採跡地への再造林が150万ヘクタールあり、森林減少はこれらの差である。1990年代の放棄農地などの非森林地への「天然林の拡大」が年平均360万ヘクタールあり、「拡大造林」が160万ヘクタールあるので、森林面積の拡大は合計520万ヘクタールとなる。森林面積の純変化は森林減少と森林拡大の差として得られる940万ヘクタールということになる。[44]

「熱帯雨林の減少の激しい地域」

西アフリカ(102万ヘクタール)、[2.45%]

中央アメリカ・メキシコ(97万ヘクタール)、[1.33%]

東サヘル(117万ヘクタール)、[1.27%]

島嶼東南アジア(164万ヘクタール)、[1.25%]

大陸東南アジア(69万ヘクタール)、 [0.85%]

熱帯南アフリカ(171万ヘクタール)、[0.81%]

南アメリカ(350万ヘクタール)、[0.41%]

中央アフリカ(94万ヘクタール)、[0.41%]

( )内は年平均森林減少面積。 [ ]内は減少率。

年率1%の減少でこのまま森林減少が続けば100年で森林がすべて消滅する。[45]

「西暦2000年の地球―アメリカ合衆国政府特別調査報告」では、1980年頃の世界の森林面積はおよそ26億ヘクタールであったとしている。このころの純森林減少率は1800~2000万ヘクタールであると見積もられているから、20年後の2000年には、22億ヘクタール程度になると見込まれる。その後も森林面積は減少を続け、2020年ごろになってようやく18ヘクタールに落ち着くという。1960年ころには40億ヘクタール弱であったというから、半世紀ちょっとで約半分の森林が姿を消すことになる。2020年に18ヘクタールの森林面積、陸地面積の7分の1に落ち着くと考えられているのは、先進工業国が14億5000万ヘクタールの森林面積を安定的に確保するのにたいして、開発途上国はそれまでに開発可能な森林をすべて開発しつくし、わずかに6億6000万ヘクタールの開発不能林を残すのみになるためであるという。この予想は開発途上国の造林努力を無視している。熱帯地域の各国の資料をもとにすると1975年から1980年までの期間では年間640万ヘクタール、1990年から2000年までは、年間400万ヘクタールに落ちるという値を示す。もっともよく用いられるのは年間1000万~1200万ヘクタールという値である。年間1800~2000万ヘクタールというのは高いほうの値である。高い値をとる理由として、統計的に森林に分類されながら、実際には農地として利用されていたりする実態を考慮している。日本の森林面積は2500万ヘクタールであるから、そのおよそ8割、低く見積もっても5割にあたる面積の森林が、毎年地球から消滅していることになる。日本の森林率(国土面積における森林の比率、林業統計では林野率という)は第二次世界大戦の直前の1930年代に66~68%で推移していた。1980年にも68%は森林であった。日本は森林国であり日本国内の森林面積は減少していない。そのことが世界的な森林減少の問題を日本人が意識しにくい原因の一つである。地球上の森林面積の減少は主に東南アジア、中南米、アフリカの熱帯地方で起こっている。1978年には世界の森林の60%弱が暖温帯域に、40%強が熱帯域にある。しかし、2000年には熱帯域の森林は30%にすぎなくなる。現在の森林減少のほとんどは熱帯で起こっている。[46]

1970年ころの推定では、約1億5000万平方キロメートルの地球の陸上面積の中で、常緑の熱帯雨林約1700万平方キロメートル、乾季に落葉する熱帯季節林約800万平方キロメートル、合計2500万平方キロメートルの熱帯雨林が存在した。この熱帯雨林の植物現存量の総量は、有機物乾量で地球全体の植物現存量約1兆8000億トンのほぼ6割に相当する1兆1000億トンと推定され、炭素量では地球大気の二酸化炭素の中の炭素の全量とほぼ等しい6000億トンとなる。したがって短期間での熱帯雨林の完全な消滅は、この炭素が二酸化炭素となって大気中に放出され、二酸化炭素濃度倍増の原因ともなりかねない。[47]

タイの例を見てみと、タイの農林統計によれば1950年から1960年にかけて、4200~5100万ヘクタールの国土面積に対して、2800~3500万ヘクタールの森林を持っていた。森林率は66~69%であった。1960年半ばには、森林率は52.6%、1978~1982年に行われた調査によると森林率は34.15~30.52%と大幅に減少(ランドサットの映像解析)し、平均森林消滅速度は年2.65%(タイ国化学エネルギー省次官サンガ・サパシ博士の国際植生学会1984年での講演)になっていた。別の報告によれば1970年代末には25.4%に落ち込んでいるという。(アナン・ナランプン「タイ国の森林経営」)わずか20年余りの間に国土面積の数十%の森林が失われたことになる。今のタイ政府の目標は森林率を少しでも回復させてなんとか40%代に戻すことであるという。開発途上国に共通して見られるように人口増による食糧需要の増大にたいしては耕地面積の拡大によって対応してきた。燃料も森林に求められた。タイでは森林の私有は認められないが、農地または農地予定地はそこを有効に耕作または耕作準備しているものに所有権が認められた。そのために、農民は自分の土地を主張するために木を切りはらい火をつけた。インドネシアでは政府が、トランスミグラシと呼ばれる移住政策を実施している。ジャワ、バリなどの過剰人口地域の人々をスマトラ、カリマンタン、スラウェシなどへ移住させ農業開発に従事させるというものである。大規模なトランスイミグラシ政策が実施されているところでは数千ヘクタールの森林を一斉に伐採して農地に転用した。東カリマンタンの上流部に住むダヤク・ケニヤ族は、一度耕作したところは必ず十分な休閑期を与え、二次林の回復を待ってはじめて次の耕作に入るという伝統的な焼き畑農業を守って農業をしている。しかし、下流部には商才にたけたブギス人族がスラウェシから移住してきて、コショウなどの換金作物の大規模プランテーションの開発を始めたことにより、広大な森林が姿を消した。ブギス族の行動は政府の開発計画にはない非合法すれすれの活動である。西カリマンタンの州都ポンティアナクでは、マングローブ林を伐採して、エビの養殖がおこなわれている。この結果、背面にあったニッパヤシ、ココヤシ林が海岸浸食の波に洗われる結果になっている。この様な森林減少の背景には爆発的な人口の増加がある。1975年に先進工業国で11.3億人、開発途上国に29.6億人住んでいた。それが2000年までに先進工業国では13.2億人になり、開発途上国では50億人に達する。熱帯、亜熱帯地域の発展途上国は高い人口圧を受けている。[48]

第2節 焼畑農業

焼畑農業は、森林・草原を伐り払い、倒れた樹木や草などを燃やしてから、陸稲、イモ類、雑穀類などを栽培する農業の一形態である。焼き畑農業の本質は単に火を使用することではなく、一回ないし数回作付した後に畑を放棄して別の場所に移動し、焼畑の跡地を自然の植生回復に任せることにある。畑の移動に着目すれば移動耕作とも呼ばれる。放置直後には草と一緒に樹木が一斉に生えてくる。そして樹木がある程度の大きさになって葉が茂ると、太陽の光が地面にあまり届かなくなる。すると、樹木の下に生えていた草が急激に減少する。カリマンタンの焼畑民は森林が回復するのを待ってから再び火を入れるという作業をする。これは「伐採―火入れ―種まき―除草―収穫」というサイクルで繰り返される。何年その地を休ませるかは重要ではなく、再び火入れをするタイミングは植生の回復度合いが基準である。これは、場所によって植生の回復度合いが異なることによる。森を燃やすと跡に灰が残る。これが作物の肥料となる。また、火の熱により有機物の分解が促進されて養分が増えると同時に土壌が殺菌されて病害の予防にもなる。さらに一度焼いた後の燃え残りを集めて再度燃やすという作業によって、あとから生えてくる雑草の量が少なくなる。これによって除草作業が軽減される。

焼き畑農業の種類

森林を焼いて農地をつくる焼畑には二種類ある。一つは移動耕作の開拓時に森林を焼く伝統的焼畑であり、二つ目は永久的定着型耕作の為の農地開発で森林を焼いた場合の焼畑である。伝統的な移動耕作の為の焼き畑では一回に焼く面積は小さく、森林を焼いたあと1~3年、耕作した後農地を放棄し次の焼き畑に移動する。放棄された焼畑は20年程度の休耕の間に森林植生を回復させ、その後再び焼き畑として使用する。しかし、人口の増加とともに十分に森林が回復していない状態での焼き畑が行われるようになった。また森林伐採のために作った林道が、森林内部への進入を容易にし、焼き畑の増大を促進させた。

非持続的な焼き畑農業は東南アジアではアブラヤシの大プランテーションやゴム園として利用される場合が多い。

「伝統的焼畑農業」 サイクルの長い循環型

「非伝統的焼畑農業」 農村地帯から新たの農地を求めて森林地域にやってきた入植者たちは非持続的な地力収奪的な火入れ開拓を行っている。

「準伝統的焼畑農業」 持続性を減退させつつあるサイクルの短い伝統的焼畑農業。

第3節 商業伐採

商業伐採とは、販売用の用材生産を目的とした森林伐採のことである。この様な商業伐採による森林開発の歴史は植民地時代にさかのぼる。東南アジアの南洋材のうち植民地宗主国が早くから関心を持っていたのはチークやマホガニーであった。特に世界的に優れた材質を誇っていたチークは、建築用材や鉄道の枕木のみならず艦船用材として適材であった。そのため、イギリスは植民地ビルマの森林を積極的に支配した。反植民地状態であったタイも含めてチーク林の開発は伐採権を獲得したイギリス商社にほぼ独占された。これにたいし、オランダ植民地政府山林局はジャワのチーク林を直営で管理した。ほとんど見向きもされなかったフタバガキ科の樹木が関心を集めたのは、第二次世界大戦後になってからである。まず、日本の商社等が合板用の原木としてラワン材を大量に輸入し始めた。ラワン材は北海道のナラ材よりも価格が安く、加工上も有利であったためである。当初その供給のほとんどを占めていたのはフィリピンであった。1960年代に入ると森林劣化が進み、対日丸太輸出規制の動きや木材価格の上昇がみられるようになったフィリピンにかわってインドネシアの森林開発が脚光を浴びるようになった。インドネシアの東カリマンタンでは1970年代初頭より、政府から大規模な伐採権利を獲得した企業により商業伐採が実施された。それは、「チェーンソーによる伐採―トラクターやスキッダーによる集材―トレーラー(林道)やタグボート(河川)による運材」という一連の作業を伴うものであった。しかし、このような森林開発の結果、東カリマンタンの低地では1980年代になって森林減少が顕著化した。マレーシアのサバやサラワクでも森林開発とそれに続く森林劣化・減少という同様のプロセスが進行した。

国連食糧農業機関のデータによると、熱帯アジアにおける森林消失の原因の49%は焼畑である。しかし、商業的木材伐採による林道の整備により、森林の奥地まで誰でも容易に侵入することが可能になった。このことにより焼畑農業が熱帯雨林の広範囲にわたり行われるようになり森林減少を加速させている。このような意味において商業伐採は焼き畑農業の火付け役であり、数字として表れる以上に商業伐採は熱帯雨林の減少に深く関係している。[49]

第4章 熱帯林業の問題点

熱帯雨林の樹木の種類組成は極端に豊富で、一種当たりの個体数は極めて少ない。そのため単位面積当たりに伐採される木の量は限られる。

東南アジアの他雨林のラワンを例にすると、ラワンはフタバガキ科ショレア属の特定の種で、面積当たりの個体数は少ない。種類組成の豊富なボルネオの多雨林では、収穫の対象となる直径60センチメートル以上のラワン樹種は、1ヘクタールあたり12本以下である。1ヘクタールにおける個体数当たりの伐採は平均で6本である。1ヘクタールあたりの伐採本数が2本以下の場合は採算が合わないため伐採対象から外される。この様な注意深い伐採であれば、破壊の程度は現存量の3分の1程度である。このため一度伐採された後の熱帯雨林も回復が早く5~10年後にはかなり森林は回復する。しかし、このような伐採方法でも特定の樹種の消失が起こるという問題がある。

現実的にはこのような注意深い伐採方法は、作業が困難で良好な労働慣行を確立にくく、コストも高く企業の採算に大きく影響するので多くは行われてはいない。むしろ、伐採や搬出に邪魔になる木を切り倒していく伐採が一般的である。この様な伐採方法でも森林の消失には至らないが、森林は極端に劣化してしまう。[50]

第4章

        熱帯雨林と違法伐採

第1節 インドネシアにおける違法伐採

2007年9月私は、インドネシアのジャワ島にフィールドワークで訪れた。インドネシアのジャワ島のジャカルタを訪れた際、街の中を木の丸太を積んだトラックが走るのを目撃した。ジャカルタの市内では木材を運ぶトラックを見かけたのはその1回であるが、確かにインドネシアで木々の伐採と運搬が行われているという実感を持った。その後、私のインドネシアの友人の親戚の叔父が森を管理している人で、実際に森で熱帯雨林の伐採を行っているということを聞いた。友人の叔父に事情を説明し、実際に熱帯雨林の伐採現場を見せていただくことができた。滞在していたジョグジャカルタから西へ車で10時間ほど走った所にジャンブールという町がある。この町に私の友人の叔父が住んでおり、友人の叔父の家で1泊させていただき、翌朝そこからさらに車で1時間ほど入った山間の木材伐採現場を友人の叔父の紹介で訪れた。そのさいには木材を積んだトラックが山間の狭い道を何度も往復する光景を見ることができた。そこで運ばれていた木々は直系が20~30cmほどの比較的細い木々が多かった。運ばれた木々は一箇所に集められて規則正しく積み上げられていた。私の訪れたこの場所では、合法的な伐採が行われているという説明を受けたが、インドネシアのいたるところで違法な伐採が行われていると現地の人は話していた。この伐採現場を訪れる前に、友人と友人の叔父と私は、かつて大規模な違法伐採がおこなわれた跡地に足を運んだ。写真では、全くの木の存在しない平地に切り取られた切り株が点在している光景が見受けられるが、十数年前まではここも、さまざまな種類の木々が生い茂るジャングルだったと友人の叔父は話してくれた。一度伐採され新地になった大地に森を回復させることは、極めて難しい事だと強く思った。

昔、インドネシアの森林を専門に勉強していた私の友人は、マレーシア人がインドネシアで森を伐採して、マレーシアに持ち帰っているケースがあると話していた。違法伐採跡地のこの場所は、現在は、政府によりゴムの木が植えられ栽培されている。ゴムの木はゴムの樹液を分泌するので、長期的に利益を生み出すことのできる材である。しかし、人工的に植えられたゴム園内は、見た目にも変化に乏しく、生物多様性という観点からみた場合、充実しているとは思えなかった。

現在のところ違法伐採の国際的な定義はないが、一般に「それぞれの国の法律に反して行われる伐採を指すもの」と考えられる。違法伐採は、各国において適切な森林管理を進める上で重大な障害になっている。[51]

インドネシアでは今なお、違法な伐採により多くの木々が伐採されている。違法に伐採された木々は、国内で消費されるか海外へ輸出されるかのどちらかのルートで消費されている。インドネシアの違法な伐採の問題点はいくつか挙げられるが、最大の問題は持続不可能な伐採が行われることにより、地球上の貴重な資源である熱帯雨林が減少していることである。

インドネシアではこれまで、違法伐採により160万ヘクタールの森林が破壊され、違法伐採量は3000万立方メートルから5700万立法メートルに達するといわれている。それ以外の問題でいえば、違法伐採は、移転価格操作[52]、密輸、脱税などを招き、本来国家に入るべき歳入が失われている。その総額は年間30兆ルピア(35億米ドル)にのぼる。[53] 私は友人が話していたマレーシアによる違法伐採の記事を日本で目にした。その新聞の情報によると、マレーシアとの国境に近いインドネシアのカリマンタン東部でマレーシアのビジネスマンに雇われた違法伐採グループ30人がインドネシア軍により摘発されている、しかし、後日ビジネスマン側が軍の指揮官に対して多額の現金を渡したことにより違法伐採グループのメンバーの拘束が解かれたという。この様な事例は、軍が公表していないだけで、沢山起こっていると考えられるが、マレーシアにより違法伐採が行われているということや軍が賄賂を貰うことで拘束した違法伐採者をむやみに解放していることは問題である。地方分権化により知事や市長に森林伐採の許認可が大幅に移譲されてから、知事や市長が賄賂を貰うことにより違法な伐採に対して許可を出すといった不正が頻発している。この問題の背景には、違法伐採を監視する側の軍や公務員の給料の安さがあげられる。また、町から離れた森林では森林伐採に代わる高収入の職業を見つけることが難しい為、違法伐採に歯止めがかからない状態である。[54]

第2節 伐採にかかわる規定

  • 林業公社(プルフタニ、インフタニ)による伐採

プルフタニはジャワに伐採事業権(コンセッション)をもち、伐採後は主にチークを植林している。カリマンタンに伐採事業権を持つインフタニⅠ~Ⅲは輸出向けの製材事業も行っている。スマトラ島にあるインフタニⅣ~Ⅴは、伐採・更新・流通から造林事業まで行っている。(プルフタニ、インフタニ両公社は2000年の民営化までは国営林業公社であった。)

  • 森林伐採事業権(HPH)による伐採

HPHは1967年頃から発布された。HPHは木材として有用な樹種の販売を目的に、民間伐採業者によって行われる大規模な伐採行為に与えられる権利。1998年までは株式形態の国内の企業に認可されていた。期限は20年で延長できる。スハルト大統領の時代(1967-1998)には大統領に近い軍人や実業家(主に華人系インドネシア人)が実質的にオーナーになっている企業に独占されていた。1999年の法改正で天然林におけるHPHの伐採面積は1申請者1州あたり最大10万ヘクタール(ただしパプア州に限っては20万ヘクタール)まで全国でも最大40万ヘクタールと定められた。保有できるのは、林業公社、国内の民間企業と協同組合である。人工林に限って外国の民間企業も参入できる。許認可の権限は林業大臣にある。しかし、この法令が発布される前にすでに大規模伐採券を持つ企業のほとんどが事業権の延長申請を終えているといわれる。

HPH業者は持続的な森林経営のためインドネシア択伐方式(TPTI)を遵守しなければならない。TPTIでは伐採区域を35の区画に分け、1年間に1区画ずつ伐採していく。伐採できる木材の直径は50センチメートル以上である。伐採事業者は伐採後の区画には商業樹種を植林することが義務づけられているほか、業者は年間事業計画(RKT)、5ヵ年間の事業計画(RKL)、35ヵ年間の事業計画を提出しなければならない。

  • 林産物採取権(HPHH)による伐採

HPHHは生産林において木材だけでなく藤や果実など木材以外の産物を採取する権利。100ヘクタール未満の面積に認められる。1申請者につき最大5件まで申請が可能である。取得できるのは、個人・組合・法人で期限は1年間である。非木材林産物に限って保全林での採取も認められている。許認可権は県庁・市長にある。1999年の地方分権化の推進と地元住民の森林資源へのアクセスを保障することを目的として導入された。

  • 木材利用許可(IPK)

林地において産業造林(HTI)やアブラヤシなどのプランテーション開発を行う際、整地に伴い樹木を伐採し販売する場合にはこの許可が必要である。この場合には皆伐である。有効期限は1年であり、林業公社、民間企業、協同組合に認められる。

  • 地域住民による慣習林での伐採

1999年の新森林法では、慣習法を行使する共同体(先住民)[55]には、自家消費用に限り慣習林での伐採が認められることになった。

  • 地域住民によるHPH域内での伐採

1993年の第25号林業大臣決定によりHPH域内においては、所轄の林業局長または指名された高官から許可を得た上で自家消費およびその共同体の社会的なニーズに基づく伐採が認められている。[56]

運搬流通にかかわる規定

丸太および製材を運搬する際には、運搬の度に合法林産物証明書(SKSHH)が必要である。さらに丸太の運搬には丸太運搬証(SAKB)を、製材の運搬には製材運搬証(SAKO)を完備しなければならない。

木材加工にかかわる規定

まず工業事業許可を投資調整庁より取得する。この許可には投資調整庁州事務所長の推薦書が必要。これによって1事業者の事業が行える分野(伐採、製材、合板など)が定められる。また製材および加工材の営業許可は商工省が発行する。

輸出にかかわる規定

HPHでは環境アセスメントを実施していること。船積みが行われる地域を管轄する税関事務所が発行する輸出物品証明書があること。合法林産物証明書(SKSHH)があること。[57]

第3節 違法伐採のメカニズム

伐採権がある場合の違法行為には①伐採事業権域外での伐採、②規定の不履行、過剰伐採、③伐採事業権取得時の違法行為、④森林賦課金や税金逃れがあげられる。

例えば、東カリマンタン州のNGOが行った調査では、対象HPH業者9社のうち伐採事業権域外での伐採が3社、年間目標伐採量を上回る伐採が3社あり、植林義務を含むその他の規定を遵守している業者は1社もなかった。また、同州ブルガン県のHPHHでは、1999年で12社中7社に、翌2000年には41社中30社に対して規定以上の伐採権および伐採面積が許可されている。いずれの場合にも監視機関の能力不足、もしくは権限者が賄賂などを受け取ることによって違法な許可を行っていると言えよう。

一方、伐採権がない場合には、まず違法行為の見逃しがあげられる。資金力のある個人または組織が、伐採が禁止されている国立公園や保護区で伐採を行う際に、行政機関、警察や軍に賄賂を提供し見逃してもらうことや、警備してもらうこともある。また、権限機関や担当者への影響力をもつ政治家、役人、有力実業家、軍人などが便宜を図ることで利益を得ることもある。一方移住民や地方住民が違法の認識を持たずに、燃料用の薪取りや焼畑を行っていることがある。さらに、先住民が本来自分たちの慣習林や個人林であると理解していたところに、HPHやHTIが許可されたり、国立公園や保護林の指定が行われたため当然の権利として伐採を行っている場合もある。保護林での土地利用許可証を群長や村長または同地を慣習林と主張する氏族が発行し、それを買い取って開墾・入植している人々がいる。このような場合にもどう判断したら良いか。インドネシアでは違法かどうか判断に迷うケースが少なくない。

第4節 違法伐採にかかわるアクター

  • 実業家:人を雇って違法伐採をやらせられる資本及び販売ルートをもつ者。政治力や経済力があるかもしくは政治的有力者とのコネクションがある。
  • 権力者:許認可や検査権を持つ者、あるいはその権限のある行政機関に圧力をかけることができる者。仲介や口利き、便宜を図ることによって利益を得る。利権にかかわる関係省庁(林業省、商工省、投資調整庁など)の高級官僚や、警察・軍の幹部、政治家(国会議員、地方議員)、州知事、県長、群長、村長たち。
  • 担当部署の公務員:必要書類の発行、偽造、書類の不備の見逃しや手数料の違法徴収など。
  • 現場の警察・軍:違法伐採業者から賄賂を受け取って、業者の護衛、検量での見逃し
  • 暴力組織:直接違法伐採にかかわっている場合もあるが、「用心棒」代の徴収により利益を得ている。
  • 伐採権保有業者:HPH、HPHH、IPK保有業者
  • 木材加工産業:小規模製材所から大規模な加工業を営んでいる企業までさまざまである。
  • 地域住民:伐採地域の周辺に移住する者、近くから出稼ぎに来ているものなどさまざまである。主に伐採・搬出、無認可製材所で働いている。なかには資本家や仲買人から借金をしてやっているものもいる。また、伝統的な森林管理が崩れている先住民族、ジャワなどからの移住民が森林を伐採し畑地として利用している場合もある。[58]

第5節 違法伐採が行われる要因

東カリマンタンにおけるバンジルカップの事例

東カリマンタンではバンジルカップと言われる住民による重機を用いない木材の伐採搬出システムがある。人々は、バンジルカップによって生産された丸太を、下流の都市からやってくる仲介人へ販売したり、建材として自家利用する。木材流通させるためには政府からの許可証が必要である。しかし、仲介人は許可証を伐採権を保有する企業などから不正に入手するか、チェックする役人に賄賂を渡して切り抜けるなどのことが行われている。歴史的には政府によって一時的にバンジルカップが許可されていたこともある。しかし、林業基本法に伴う施行令によって禁止された。[59]バンジルカップは法律によって禁止されているが、今も各地で行われている。しっかりとした取り締まりも行われているわけではないので、他所からきた企業に伐られてしまう前に自分たちで伐って利用した方がいいという心理が住民に働いている。そういう意味でも企業による大規模な伐採が住民によるバンジルカップを誘引していると言うことができる。インドネシア全体の平均では、公式伐採量と同量の違法伐採が行われている。しかし、大規模な森林伐採では林道を作りブルドーザを持ち込んで行われるため、森林への影響はバンジルカップよりも大きい。とはいえ、バンジルカップによる違法伐採も相当な量に及んでおり森林減少の原因になっている。[60]

バンジルカップの変化

バンジルカップは昔は斧を用いていたが、今はチェーンソーを導入している。それにより伐採量と伐採スピードが増加した。さらに、2000年に入ってからはエンジン式ウインチが普及し始めた。ウインチの導入により今まで利用されなかった川岸からある程度離れた樹も伐採されるようになった。そのため伐採の規模と範囲が急速に広がっている。[61]

  • 違法伐採に拍車をかけている「加速要因」
    • 林業政策そのものが違法伐採を生む素地になっている「政策要因」
    • 汚職などの腐敗が構造化しており、それが違法伐採の根幹を支えている「構造要因」
    • 国内の木材需要と原木供給のアンバランスや木材貿易に起因する「市場要因」

この4つが挙げられる。

「加速要因」

Ⅰ 経済危機

(1)1997年後半以降の経済危機で経営難に陥ったHPH保有企業の中に伐採権を放棄するところが現れた。この頃から供給のほとんどすべてを違法伐採から得る新しい小さな製材工場が出現する湯になった。伐採業者など原木供給側も、違法グループへ資金を提供し安い原木を供給させるようになったといわれる。

経済危機は地域住民が違法伐採によって収入を得ようとする動機になった。

(2)森林開発を促進する深層レベルの背景原因には、途上国の大多数が直面する累積債務危機がある。途上国は、債務の金利返済に追われて、国内の天然資源の現金化、商品作物栽培地の拡大に迫られている。それが、国内の資源である森林を次々と伐採して利益を出そうとする動機になっている。[62]

Ⅱ IMFの政策

 IMFが押し進めた丸太輸出解禁によって丸太の国内流通量の減少を招き、丸太価格の上昇をもたらした。通貨危機の影響で経営が苦しくなったところも多く、より価格が安い違法材への需要が高まった。

Ⅲ 開発事業によるオープンアクセス化

 国立公園内に森林開発事業や道路が建設され森林へのアクセスが容易になったことで、違法伐採に拍車がかかった。

「政策要因」

スハルト体制下の森林政策は、大企業を中心とするHPHやHTI、プランテーション事業(林地の農場への転換)を中心に進める一方、各地域で森林管理をしてきた人々を森林から排除するか、森林開発事業の労働者として組み込むといった政策がとられて来た。スハルト退陣後も改革の十分な準備がないまま実効に移されたため混乱が起こった。

Ⅰ 森林区分と慣習的利用権の重複

 1960年代後半スハルト政権は全森林地域の90%を政府の管理に集中させ、先住民や慣習共同体による慣習的な所有権を無効にした。このことが。今日まで続いている森林利用をめぐる紛争の原因である。

Ⅱ 大規模森林伐採事業権(HPH)

 HPH業者の多くは、伐採事業規定であるTPTIを守ってこなかった。行政側には違法行為を監視する能力はなく、逆に業者と癒着して違法行為を見逃したり、違法行為に加担することが行われた。このことが、HPH保有者に規定を遵守する必要性を感じさせなかった原因である。

Ⅲ 林産物採取権(HPHH)

 森林の境界線や慣習的利用権が明確に決定されないままであると同時に、地方分権化に伴い、行政の指示命令系統が混乱していた状態で導入が行われたため、多くのHPHHが違法に許可されることとなった。また、HPHHの期限が1年であったため、業者は持続的な森林経営の視点を失い、できる限りの収益を上げた者勝ちという認識を植えつけた。

Ⅳ 拙速な地方分権化の推進

2001年から地方分権二法が施行され、州に次ぐ第二級地方自治体だった県・市への大幅な権限の移譲が行われた、地方は独自財源の確保を迫られる中で、自らの権限を拡大解釈する傾向が見られた。丸太輸出許可の乱発、法令・省令と整合性のない県庁令の発布など法令の解釈に混乱が生じた。このことが違法行為に対する国民の十分な認識・周知の醸成を妨げていた。

Ⅴ 森林管理への住民参加の低さ

 長期にわたる森林の利用権が保障されていない場合には、持続的な森林資源の利用や違法伐採を阻止するインセンティブが働かない。

「構造要因」

汚職・癒着・縁故びいき(KKN)

開発事業の許認可、森林産物採取、運搬、加工、輸出にいたるあらゆる段階で汚職が日常化している。賄賂の要求や違法伐採に応じなければ事業を行うこと自体不可能な状態になる。そのため、伐採や販売、加工、輸出にかかるコストは予想以上に膨らむことになる。このことが、少しでも多くの収益を上げようとする業者を過剰伐採などの違法行為に走らせてしまう。

「市場要因」

Ⅰ 国内の原木需要と供給のアンバランス

 1996年から2000年におけるすべての年で木材の需要量が木材の供給量を大きく上回っている。インドネシアでは紙パルプ部門の伸びが国内の原木需要量を押し上げている。紙パルプ産業は植林木からの原木供給は8%に過ぎず、それ以外を違法伐採や皆伐によるものから入手しているといわれる。

ジャンブール近くの森から切り出された木材  2007年9月7日 本人撮影

ジャンブール近くの森から切り出された木材。 2007年9月7日 本人撮影

ジャンブール近くの森。細かく裂かれて積み上げられている木材 2007年9月7日 本人撮影

ジャンブールの森で働く労働者 2007年9月7日 本人撮影

ジャンブール近くの森から切り出した木材。木の箱を作る為の木材を整形した後に積み上げている 2007年9月7日 本人撮影

ジャンブール近くの森で伐採され放置されている木材 2007年9月7日 本人撮影

ジャンブール近くの違法伐採跡地を山の上から見た写真 2007年9月7日 本人撮影

ジャンブール近くの違法伐採現場。違法伐採された後に放置された丸太 2007年9月7日 本人撮影

違法伐採跡地にインドネシア政府が植えたゴムの木の森 2007年9月7日 本人撮影

白いゴムの樹液をコップで受け止めている 2007年9月7日 本人撮影

ジャンブール近くの山。違法伐採により丸裸になっている 2007年9月7日 本人撮影

ジャンブール近くの山。地元の人の話では、10年前までは豊かな熱帯雨林が広がっていた。しかし、違法伐採により丸裸になってしまった 2007年9月7日 本人撮影

人口の増加がもたらす森林減少

農耕地・放牧地、薪炭需要の増大の背景としては、人口の急激な増加がある。1960年代年率約2%であった世界の人口増加率は、1980年代には1.7%、先進国のみの平均では0.6%まで減少している。しかし、熱帯諸国の多くが含まれる開発途上国の平均は2%を上回り、ラテンアメリカでは2.3%、アフリカでは3%に達している。年率2%は36年で、年率3%は24年で人口が倍増するという高い数値である。

この急激な人口増大は、農耕地開発のための森林伐採を促すとともに、薪炭採取の為の樹木伐採を急速に増大させた。

日本における木材輸入

1960年代後半から始まった高度経済成長とともに、日本では住宅の建設ラッシュが起こり木材需要が急激に高まった。こうして1970~1980年代にかけて、日本は東南アジアの熱帯雨林から切り出した原木丸太を大量に輸入するようになった。1970~1985年の間に日本がインドネシアから輸入した木材の総量は、約2億1373万立方平方メートル。森林面積に換算すると1200万ヘクタールであり、日本の国土の3分の1に相当する。この時期にはマレーシアからも木材を輸入しているので、日本は大量の木材を東南アジアから輸入していたことになる。[63] 現在、世界最大の熱帯材丸太輸入国は中国である。しかし、輸入しているすべての熱帯木材を丸太に換算して合計すると日本が世界貿易に占める割合が25%(1999)となり世界一の熱帯木材輸入国である。輸入先はマレーシア(47%)、インドネシア(41%)の2か国で約9割に近い。インドネシアの違法材はマレーシアや中国へもかなり輸出されているので、マレーシア経由で日本にも違法材が入ってきていると考えられる。[64] 日本は、今まで熱帯雨林の減少に加担し、熱帯雨林の恩恵を得てきたと言うことができる。今後の日本は世界の熱帯雨林の減少に歯止めをかけ、保全していく責任があると思う。

第5章

インドネシア熱帯雨林地帯における森林火災

ジャワ島の森林火災発生現場。地表火によって完全に下草が消滅している。

2007年9月6日 本人撮影

第1節 インドネシアの森林火災の影響

熱帯雨林の減少の原因として違法伐採とともに大きな要因になっているものが森林火災である。インドネシアでは周期的に訪れる異常気象に伴い、大規模な森林火災が発生している。近年の記録では、1982/1983、1987、1991、1994、1997/1998年と数年ごとに繰り返されている。1997/1998年の森林火災はたいへん規模が大きいものとなり国際的な注目を集めた。1997/1998年の森林火災では大規模な森林焼失のみならず、火災から発生する煙霧がシンガポール、マレーシア等の近隣諸国にまで及び、気管支炎など住民の健康障害や空港の閉鎖などの交通障害をもたらした。インドネシアのカリマンタンやスマトラ地域は熱帯降雨林帯に区分され、年間を通じて降雨量は多い。いわゆる乾期といわれる7月~9月の3ヶ月間でも例年は月平均60ミリメートル程度の降雨が見られる。しかし1997年は5月頃からエルニーニョ現象の訪れが予想され、乾期が厳しく異常気象に見舞われた。7月~9月の3ヶ月間は毎月1、2日程度の降雨日しかなく雨量も月平均2,3ミリメートル程度しか記録されていない。7月に入るとカリマンタン、スマトラを中心とする各地から大規模の森林火災が報告された。11月中旬になると各地で少しずつ降雨が見られるようになり、12月の遅い雨季の到来とともに森林火災は収まった。しかし、年が明けて1998年の1月、東カリマンタン州の一帯に厳しい乾期が訪れ、大規模な森林火災は再燃した。1月~4月の4ヶ月間にほとんど降雨が見られなかったため甚大な火災の被害がもたらされた。[65]1997/1998以降2002年までインドネシアでは5回の乾季を迎えているが、顕著なエルニーニョ現象は発生しておらず、どの乾季も平年並みかそれ以上の降雨量があった。そのため、林業省公表による森林火災面積も数万ヘクタールと1997/1998年火災に較べて一桁少ない規模にとどまっている。2001年のホットスポット検出数は1999年、2000年に比較して大きく減少しているが、主な要因は降雨日および降雨量が例年以上に多かったことであり、森林火災対策の進展が要因とはいえない。[66]

過剰な伐採や大規模な森林開発により従来の森林火災に抵抗力のある森林生態系が、次第に抵抗力の弱い生態系に変化してきていることは大きな問題である。[67]

第2節 インドネシアの森林火災の被害面積・被害総額

 森林火災の被害状況はインドネシア政府の林業省が全国各州に置いた出先機関である林政局からの報告を受けて集計し、公表することとなっている。例年、乾期にはボゴールにある林業省自然保護総局は24時間体制をとり、被害箇所や被害面積などの情報を収集している。これによると、1997年及び1998年の被害面積は、それぞれ24万ha及び50万haとなり過去の大森林火災の被害に比較して最大規模の被害であることが示されている。林業省の集計は各現場のレンジャー等からの報告に基づいたものであるが、国有地である森林部分しか対象にしておらず、私有地である農地や原野の火災は含まれていない。また、国有林内の火災であってもブッシュや二次林などの経済価値の低い林分は報告の対象にならなかった場合が多かったと思われる。また、オイルパームやゴム園の火災も相当規模に及んだと見られるが、これらは農業省の所管であり、林業省の報告による森林火災には含まれていない。他にもアクセスの悪い森林の奥地はその周辺部分しか調査が行われていない。このようなことを考えると林業省の計算したデータも実際に焼失した森林面積の一部しか現していないと思われる。しかし、公式データは林業省のデータしかない。一方いくつかのドナーが被害面積をさまざまな方法で推定したものによると、森林焼失面積を510万ha、農地や草地を含んだ全焼失面積を970万haと見ている。また、1997/1998年の火災による炭素排出量は700万tでこのうち、60パーセントは泥炭層の燃焼から、20%は森林を農地やオイルパーム園に開発するための火入れから発生したと見られる。被害総額は93億米ドルで、内訳は農作物被害24億米ドル、天然林内の木材被害18億米ドル、土壌流出・堆積機能の損失16億米ドル、炭素固定機能の損失14億米ドルと推定されている。

第3節 インドネシアにおける森林火災の背景と原因

 大規模な火災は乾燥した気象、可燃物、火種の3つの条件が揃わなければ発生しない。

Ⅰ 気象  エルニーニョ現象による異常乾期によるものである。

Ⅱ 可燃物  森林火災の場合森林内の樹木及び林床の落葉・落枝が可燃物である。そして、可燃物の量や燃えやすさは対象森林の植生タイプや林齢の違いによって大きく異なる。

一般に、天然林と人工林を比べた場合、植生が単純で下層植生の多い人工林が火災の被害にあいやすい。インドネシアでは1990年頃から政府の補助を受けてアカシア・マンギウムなどによる産業造林が急激に拡大した。アカシヤ・マンギウムは荒廃地に耐え、成長もよい為、盛んに造林される。しかし林内には分厚い落葉が堆積し、熱帯地域に多い地表火の被害に極めてあいやすい樹種である。熱帯地域は林内の湿度が高く、強風が吹く事も稀なため樹冠火や樹幹火はめったに発生せず通常は地表を火が走りぬける地表火である。そして、地表火の危険性は下層植生や落葉・落枝等林床における可燃物の量に大きく関係している。一方、天然林については、劣化したいわゆる二次林が火災の被害を受けやすい。立木密度のまばらな二次林は林内が明るく、乾燥状態になっていることが多く火災の被害を受けやすい。インドネシアにおける天然林の収穫は通常、35年周期の択伐方式である。択伐といっても胸高直径50センチメートル以上の商業樹種はすべて収穫される方式である。伐採後の林内はかなり穴の空いた状態となり、乾燥が進み燃えやすい状態となる。泥炭層地域は通常、湿地であるが、異常乾期にはカラカラに乾燥し、非常に燃えやすい状態となる。いったん有機物である泥炭層に火が点くと、大量の可燃物は長期間燃え続け、莫大な量の煙霧を排出する。

Ⅲ 火種  インドネシアでは、落雷や自然発火はきわめて稀であり、火種のほとんどが人的行為に起因する人為火災である。火種を分類すると。

1 農地、草地、焼畑への火入れ  これは農家による小規模な火入れである

2 森林開発のための火入れ これは産業造林、農園、移住地の農地造成などの為の企業による大規模な火入れ

これらの火入れの火が人間のコントロール下を離れ、周囲の森林・原野へ延焼し大規模な火災へ拡大したケースが極めて多いと思われる。また、たき火やタバコの火の不始末からの出火も多い。このほか、政府や企業に焼畑等の土地使用の機会を奪われた住民が、報復措置として植林地や農園に放火するケースも多い。森林内の違法伐採跡地の証拠隠滅のために放火することもあるという。

一般に火種は森林外にあり、外部から森林内に延焼するケースが多い。近年農園・農地開発の増加により森林が分断され、森林面積に比べて周囲延長が伸びていることで火災が入り込む危険性が増えていると考えられる。

火災原因はさまざまあるが、ここの森林火災の原因を特定することはきわめて困難であり。インドネシア林業省の報告にも原因別による火災の件数、面積等のまとまったデータはない。ただし、リアウ州および東カリマンタン州の調査によれば、火災の発生原因は、森林の他用途への転換(34%)、移動耕作(25%)定着農地への火入れ(17%)放火(14%)の順に多いとされている。[68]

産業植林によって引き起こされる森林火災

BP社による移住事業連結型産業植林の対象区域からの延焼によって、東カリマンタン州マタリバック村の森林区域のうち40%が焼失し、果樹園に関しては半分以上が焼失した。これによりマタリバック村の村長の妻が命を落とした。この後、村と企業との間に話し合いがもたれ賠償金の支払いが行われた。[69]

森林火災による大気中への炭素の排出

炭素は森林の幹の部分にのみ含まれているわけではない。インドネシアのスマトラ島やカリマンタン島の中部には倒木や枯れた植物が湿地に覆われ炭化し、数千年をかけて積み重なった泥炭が存在する。森林火災が起こると湿地が乾燥し泥炭の分解が進むだけではなく、泥炭が直接燃えることにより大量の炭素が大気中に放出されてしまう。インドネシアの泥炭地からの温室効果ガスの放出量は年平均20億トンで、日本の排出量13億トンを大幅に上回っている。この様に、森林火災が起これば広範囲の森林が失われると同時に、燃えた木や泥炭から大量の炭素が排出されて、地球温暖化の大きな原因になってしまう。[70]

第6章

インドネシアにおけるアブラヤシ農園拡大政策

第1節 アブラヤシの生産適地であるインドネシア

 私は2007年、2008年と合わせて2ヶ月ほどインドネシアのジャワ島に滞在したが、アブラヤシというものを見た記憶がない。それは、アブラヤシが大規模なプランテーション栽培として一箇所で栽培されていることと、カリマンタン島、スマトラ島で栽培が盛んであることが原因であると考えられる。私が、インドネシアやタイでよく見かけたのはココヤシである。ココヤシは町の中にも見つけることができるし、食事にもよく出された。しかし、アブラヤシといわれると具体的にイメージがわかない。しかし、アブラヤシから取れるパーム油は、植物油、マーガリン、ショートニング、洗剤、シャンプー、界面活性剤、研磨剤など数多くの製品の原料として使われている。そして、そのアブラヤシの生産量の約半分を占めるのがマレーシアであり、続いて32パーセントを占めるのがインドネシアである。アブラヤシの生産はこの2カ国で80%を超えている。世界のパーム油の生産量は、1994年~2001年にかけて63%の伸び率を示している。中でも同時期のマレーシアの生産量の伸び率が59%であるのに対してインドネシアの伸び率は119%と高くなっている。その原因として、パーム油は他の植物油脂に較べて生産コストが安いことがあげられる。とりわけインドネシアの農園労働者の賃金はマレーシアの5分の1、土地の価格は4分の1とマレーシアに比べてもかなり低い。生産量世界一のマレーシアはサラワク州を除いて耕地面積がすでに飽和状態である。一方インドネシアは国土が広いため今後、面積的にも生産量的にもマレーシアを抜いて世界1位になると考えられる。インドネシアにおけるアブラヤシの栽培面積は、1967年の10万5808ヘクタールから2000年の約300万haまで急激に増加している。また1996年時点でインドネシア政府がアブラヤシ栽培事業許可を出した面積は913万ヘクタールであるので少なくとも600万haがこれから植栽される予定になっている。その大部分はパプア州にある。

アブラヤシの原産地はアフリカである。インドネシアには1848年に移植された。アブラヤシの生産に適している地域は、赤道を挟んで北緯12~15度から南緯12~15度の間に広がる熱帯地域である。湿度は80~90%高いほうがよく、気温は29~30度が適温である。雨量は年平均2000~2500mm、乾季に収穫量が減るので1年を通じて長期の乾季がないことが重要である。また、苗が風に弱いので台風が来る地域では栽培が難しい。このような地域は熱帯多雨林が形成されている地域である。また、平均4年周期のエルニーニョによる異常乾季はあるものの、1年を通じて明確な乾季がなく1年中豊富な雨量があり、台風の影響を受けることがないインドネシアのカリマンタン島、スマトラ島などは、アブラヤシ栽培の最適地と言うことができる。[71]

第2節 アブラヤシ需要の伸び

 インドネシアでの1人当たりのパーム油の年間消費量は1987年の4.97kgから1996年には11.23kgに増加した。また、世界的に見て植物油の消費量は増加しており、植物油消費量は1994年の6837万トンから2001年には9511万トンに増加。植物油のうち大豆油が全体の29%で1番大きく、次いでパーム油が27.5%である。[72]

第3節 森林のプランテーション用地への転換政策

1990年の産業造林の推進と並んで森林のプランテーション用地化、特にアブラヤシ栽培への転換が積極的に進められた。2001年1月までにすでに約550万haが森林から多用途に転換されている。そのうちプランテーション用に転換されたのは約450万haである。[73] アブラヤシは約25年間収穫できるが、最初の収穫までに3~5年かかり、最盛期は10~15年後に訪れる。このため資本回収までに長期間を有するうえ、参加農家への技術指導、栽培資材などの貸付資本や農地開拓の費用など、新規開拓には莫大な費用がかかる。また、大統領令でも「中核となる企業は大企業である」と規定されている。このため、アブラヤシ農園は、ラジャ・ガルーダマス、サリム、シナル・マス、アストラなどの大企業グループが占めている。[74]

第4節 森林の消失

森林地でプランテーション事業を行う際には森林の木を皆伐する。しかし、木を伐採し利益を得た後は行方をくらまし、プランテーション事業を行わない業者が非常に多い。1998年10月の時点で伐採後アブラヤシ栽培を行っているのはわずか16%であった。この結果からも多くの事業者にとって木の伐採だけが目的である場合が多い。プランテーションに開発される森林の多くが、天然林や良質な森林である。このようなことが行われている結果、森林は減少してしまう。また、たとえプランテーション栽培が行われ、森林伐採跡地に多くのアブラヤシが植えられたとしても、もともとの天然林は単一樹種の森に変換したことになり、森林が劣化したといわざるを得ない。その理由は、単一樹種の森になることで、火災に対する抵抗力の減少と生物多様性の減少が起こるためである。[75]

第7章

熱帯雨林保全への取り組み

第1節 熱帯地域を含む世界各国の植林地面積の比較

FAOによって行われた調査によれば、世界の陸地面積130.6億haのうち、森林面積は38.7億haと推計された。このうち95%は天然林であり、残りの5%が人工林である。[76]

私は登山が好きなこともあり今までに多くの日本の山に登ってきた。よく足を運ぶ山々には、東京の奥多摩や神奈川の丹沢などがある。いずれの山塊にも杉や檜などの木々が広く造林されている。日本では戦後造林された多くの人工林がある。私は時々、その人工林の管理の仕事を丹沢でやっているので、人口林については非常に身近に感じてきた。

しかし、FAOによるデータを見れば、世界の森林のほとんどが生物多様性に恵まれた天然林であるということがわかる。国別に見た人工造林地の広い国を挙げると、中国(24%)、インド(18%)、ロシア(9%)、米国(9%)、日本(6%)、インドネシア(5%)、ブラジル(3%)、タイ(3%)、ウクライナ(2%)、イラン(1%)であり、これらの国で世界の人工造林の80%をしめることになる。[77]

このように、国土面積が狭い日本が人工造林地面積の世界5位の位置におり、世界有数の熱帯雨林の森を持つブラジル、インドネシア、中央アフリカ、南アフリカや国土の面積の広い他の国々においても、日本ほどの植林地を持っていないことになる。これは驚きであり、世界の森林造林に対する意識の低さを浮き彫りにしている。

また中国やインドでは増え続ける人口のために増加する木材需要に対応するために国内で造林を行っている。この造林は木材需要を満たすほかにも緑のダムを作ることで、川の氾濫を防ぐ目的がある。日本は人工造林を戦後から行ってきた歴史と技術を持った国なので地球規模の森林減少問題に対処するための技術を世界へ発信していく必要があると思う。

第2節 森林認証制度と熱帯雨林の保全    

 今、世界的に違法に森林が伐採されることが問題になっている。違法に伐採された木々は、何らかの形で最終消費者のもとへ行く。国内で消費されるか、海外へ輸出されるかである。日本にも違法に伐採された木材が入ってきて、知らず知らずに消費者は違法に伐採された木材を消費しているかもしれない。しかし多くの場合、消費者にはどの商品が合法に伐採された木材で作られたもので、どれが違法に伐採された木材を使っている商品なのかを知るすべがない。この様な状態では、消費者も合法に伐採された商品を買うことを選択できない。違法に伐採された木材は一般に安く取引されるため、違法伐採材を使った商品は、相対的に安い値段がつく。また、違法伐採の商品でも合法伐採の商品でも、品質的に違いがないため、合法的に伐採された商品よりも違法に伐採された木材のほうが、強い競争力を得てしまう。 このような現状では、熱帯雨林の違法伐採に歯止めがかからない。そこで今、注目を集めているのが森林認証制度である。合法的に伐採された木材にたいして、第3者機関が合法に伐採された木材であることを証明する認定を与える取り組みである。第3者の認定機関が正確に審査を行えば、この取り組みにより少なくとも確実に合法的に伐採された木材を知ることができる。この事は非常に重要なことである。しかし、いくら森林の認証が行われても、森林認証をされた木材を消費者が使わなければ意味がない。そのためには、輸入側の国が認証材しか輸入をしないなどの措置をとること、輸出国側も認証をとった材しか輸出をさせないような法制度を築いていく必要があると思われる。しかし、木材の認証には多くの費用がかかるなどの問題もある。だが、今後の森林減少に歯止めをかけるためには違法伐採を減少させることは非常に重要な課題であり、今後森林認証の重要性は増していくと思われる。

世界の認証機関

熱帯林地域を対象とする国際熱帯木材機関(ITTO)の基準・指標、ヨーロッパの森林を対象とするヘルシンキプロセス、ヨーロッパ地域外の温帯林に対するモントリオールプロセス、アマゾン地域を対象とするタラポト会議、アフリカ地域に対するUNEP/FAOイニシアティブとFAO/CCADイニシアティブ、世界に展開している、森林管理協議会(FSC)や国際標準化機構(ISO)などの取り組みがある。

 森林を認証するというプロセスは、まず「持続可能な森林経営」という抽象的な概念を、より具体性をもった「原則や基準」によって決定づける必要がある。一般に環境(生態系・貴重種の保護、水源保全等)、経済(健全経営、計画性等)、社会(先住民、労働者、地域協調等)といった分野について具体的根拠をもった基準が整理される。森林認証には、科学性、中立性、透明性が強く求められると同時に第3者機関による審査プロセスが不可欠とされる。現行の森林認証制度は国際的に見て2つの潮流がある。1つは環境NGOが中核となって進めているFSCによる認証制度の動きであり、現場のパフォーマンスを重視している。この認証制度は、厳しい基準が設けられていて、多くの面で森林経営を縛り、環境のことを細かなところまで考えている、環境保全重視の認証といえる。この認証は、他の木材との強い差別化を打ち出せると考えられる。もう一つは、FSCに対抗する形で林産業界が主導しシステムを重視する認証制度であり、欧米を中心に国家ベースで展開している。この認証の流れは、より現実的にすぐに導入できるように認証のハードルを少し下げている。この認証によって、全体の木材の合法性の底上げを図ることを狙える。[78]

FSC森林認証制度の動向

 FSCの示す10原則56基準を評価基準として、世界各地の森林経営を一元的に評価しようとするものである。FSC認証の審査は、FSCに信任された審査機関が、所与の原則・基準に基づいて審査することになるが、現状では各、審査機関が独自のマニュアルに沿って審査を進めるという体制が採られる。2002年6月現在、FSC認証は世界56か国で423経営体が取得しており、面積は合計で約2850万ヘクタールに達する。しかし、FSC認証制度の立ち上げ当時には、熱帯林破壊の阻止を中心課題としていたがFSC認定森林の所在地は、全体の半分近くが北欧に集中し、次いで東欧や北米に多くなっている。今のところ、熱帯林地域に対する認証は全体の1割程度にすぎない。この偏在には、FSC認証審査に耐ええるだけの森林経営の法制度が先進国に元々存在したことが理由としてあげられる。また、認証費用が小規模経営体には大きな負担になるため、認証森林の主体は今のところ産業林にある。FSC認証は非常に厳しく敷居の高い認定であるため、多くの経営体は導入できない、それによりFSC認証を受けた木材の供給力が不足してしまうために、供給力不足を解決するために、FSCの認証の厳しさを軟化させている。[79]

PEFC等その他の森林認証制度の動向

FSCに対抗する形で林産業界が牽引してきた認証制度には、ISO環境マネジメントシステム、CSA、SFI、PEFC(全欧州森林認証制度)などがる。FAOの統計によれば2001年の段階で、世界の認証森林は8070万ヘクタール(世界の森林面積38億6000万ヘクタールの約2.1%)とされる。ここには、FSCの他にPEFC、CSA、SFI、ATFP、GTが含まれる。FSCは2850万ヘクタールなので、FSCが認証森林の3分の1である。しかし、このFSC統計にはISO14001の認証が含まれていない。ISO14001の認証面積は1億数千万ヘクタールに達する可能性がる。[80]

インドネシアにおける森林認証

1990年の国際熱帯木材機関(ITTO)第9回理事会において、熱帯木材貿易に関して「西暦2000年までに持続可能な経営が行われている森林から生産されて木材のみを対象とする」との戦略目標意を含む行動計画が採択された。さらに、1992年第12回理事会において「2000年目標」達成のための指標となる「持続可能な熱帯林経営の評価のための基準」が採択された。1998年5月にバリで開かれた第24回理事会では、持続的熱帯林経営のもとから産出された木材のみが貿易に供されるべきという認識の下で基準・指標が改定され、ITTOメンバーの熱帯木材へのエコラベル導入の動きに結び付いていくこととなった。インドネシアでは、1993年はじめにITTOの持続的な熱帯林経営に向けた基準に対応すべく、伐採権保有者団体であるAPHIが専門家チームを発足させ、また同年終わりに林業大臣主導によりインドネシアのエコラベルに関するワーキンググループ(WGLEI)も組織された。これらの背景には、ITTOへの対応のみならず、諸外国の消費者の要請、地域社会からの批判的な意見、そして林業業界における環境への配慮の高まりがあった。WGLEIはAPHI専門家チームや国家規格協議会(DSN)、非政府組織(NGO)研究者などを含んで組織され、インドネシアの持続可能な生産林経営の実現に向けた基準・指標づくりが進められた。このWGLEIがもととなり、インドネシア・エコラべリング協会(LEI)が環境の持続性を高めることを付託された独立の非営利組織(NPO)の形態をとり、1998年2月6日に正式に設立された。LEIは信頼されるエコラベルを伴う認証制度の適用により、天然資源と環境の持続的管理の確立を主たる目的とし、組織としては代議制に基づく機関となることを目標としている。またその使命として以下の四つを挙げている

  • 天然資源と環境の持続的管理に関して信頼される認証制度を確立すること
  • ①の認証制度の実施を確かなものとすべく権力の抑制と均衡を図り、統制メカニズムとしての信用状発行制度を確立すること
  • エコラベル認証制度の実施を促進するための人的組織的能力開発を進めること
  • 認証制度を監督し、天然資源と環境の持続的管理を促す施策を展開すること[81]

LEIの審査プロセスは4段階からなる

  • LEIのガイドラインのもと、トレーニングプロセスを終了した専門家が構成する専門家パネルⅠによる審査(書類審査、現地査察、評価の決定と勧告の提示)
  • その結果に基づき認証機関が当該森林を評価し認証プロセスに進めるかどうか決定を行う

第2段階は本審査であり、現地査定と住民への周知が並行して進められている。

第3段階は、基準・指標に沿ったパフォーマンス評価と、それまでの審査プロセスに基づき専門家パネルⅡが認証の意思決定をする段階となる。

第4段階は認証を決定する段階である。認証委員会は認証決定についてマスメディアを通じて広くアナウンスするとともに、かかわる政府やNGO、関心を有するグループや機関に通知することになる。また、認証機関は定期的な認証森林のモニタリングと評価を行う。[82]

このように、認証材輸出する取り組みが各国で行われているが、東アジアを中心とする認証材需要は顕著に増加する状況とはなっていない。このことで、認証材を取得するメリットが生まれず、森林認証は、林業公社、など政府系の事業体がFSCを中心に人口林において森林認証を取得するにとどまっている。

また、森林認証制度は林業労働者を含む林業活動の面に重きがおかれ、森林により依存して生活している先住民や少数民族への配慮が足りないという指摘をNGOから受けている。

今後は、インドネシアの多様な森林利用形態に対応できる認証制度を作っていく必要がある。また、認証材を積極的に使用するというような、輸入側、消費者側の倫理観が今後とわれていくことになるだろう。[83]

第3節 産業植林の増加とその問題点

産業植林とはパルプの原木、建築材の原木などを生産するための植林であり、伐採と植林が繰り返される。産業植林は、熱帯の原生林からの森林伐採を減少させるためにも非常に重要であると考えられる。しかし、実際には様々な問題を含んでおり、一概に産業植林を良いものとすることはできない。「伐採」と「植林」は、その行為において対局的なものと考える人々が多いが、その土地に住む人々の伝統的・持続的土地利用を侵害するものとしては、同列の問題を引き起こす。産業植林実施には様々な問題点を解決し、いろいろな立場の人々にとって利益を生み出せる仕組みにしていかなければいけない。この節では産業植林の説明と、産業植林の問題点などを整理していこうと思う。

産業植林とは何か

インドネシア政府は、石油依存型の輸出構造を是正することを目的として、木材資源の有効活用をめざした振興政策をとってきた。しかし、それによってインドネシアの森林資源は減少・劣化が進み国際的な問題となった。また、急増する木材加工分野からの原木需要にこたえるためにも、積極的な植林が欠かせないと考えられるようになった。

産業植林の目的は

・原木の安定供給を通じ木材産業の発展を支援・強化する。

・荒廃地を緑化し環境改善を図る。

・林業にかかわる雇用機会・事業機会を創出する。

 産業植林は大きく分けてパルプ用産業植林と非パルプ用産業植林にわけられる。パルプ用産業植林は規模が大きく許可される森林対象面積は最大30万ヘクタールである。非パルプ用産業植林は許可される森林対象面積は最大6万ヘクタールである。インドネシアにおいては普通生産林に指定された林地の中で、裸地、草地、藪の蓄積が1ヘクタールあたり20立方メートルを下回る蓄積のひくい場所が産業植林の対象とされる。

産業植林と移住事業の連携とその問題点

産業植林は、スマトラやカリマンタンの、人口密度が低い地域を対象として実施されることが多い。そのため、労働力の不足が問題になっていた。そこで、産業植林と移住事業を組み合わせることが考えられた。移住事業は人口密度の集中しているジャワ島からカリマンタン島やスマトラ島などの人口密度の低い島へ人々を移住させる政策である。入植直後の仕事として産業植林で働いてもらうことを考えた結果である。

産業植林の始まり

インドネシアの植林は1873年にジャワ島で開始された。その後、1916年になってスマトラ島などでも行われるようになった。1960年代後半からはカリマンタン島などをはじめとしてインドネシア国内各地で植林事業が行われるようになった。しかし、成長の早い樹種を短い周期で植えて伐採するという、木材やパルプの生産を目的とした産業的な植林が開始されたのは1984年の第4期5カ年開発計画からである。そして、1989年から規模が拡大され、1990年「産業植林事業権に関する政令」という形で法令が整備され、本格的に産業植林が推進されるようになった。[84]インドネシアで行われた産業植林は、日本や周辺諸国からの木材需要にこたえるために拡大されていった。

産業植林がもたらす地域住民への影響

熱帯植林の最大の問題点は地域住民が利用している土地が植林地として収容されることである。植林会社は政府との契約に基づいて事業を実施しているため、なんら悪いことはしていないと主張するであろう。しかし、住民からみれば農地や果樹園を植林のために合法的に奪われたことになる。これは、遥か昔から先祖代々、慣習的に森を利用していた人々がいても、土地の所有が法的に彼らにはなくインドネシア政府にあるといことにより問題が引き起こされている。1990年代に入ってから、インドネシア政府は産業植林を強力に推進してきた。ところが、植林対象地にはすでに多くの人々が居住し、焼畑農業を営んでいる。人々が陸稲などを作付している最中の畑を会社側が強制的にブルドーザーで潰すことはあまりない。しかし、畑家の周囲をすべて植林地対象とされ、植林地で囲まれた畑の地力が落ちる数年後には、畑の耕作者はその場所から退去せざるを得なくなる。そのときすでに、周辺は大規模植林地となっており、焼畑農業を行う場所が僅かとなっている。この様なプロセスで土地を失う人のために、会社側は植林後1~2年の間、植林木の管理と引き換えに農作物の間作を認めたり、生活に必要な樹木の植林技術を指導したりする。しかし、これらの措置を施したところで、そこで暮らしていた人々が生活していけるわけではない。焼き畑を営んでいた人々は植林の労働者として働くことによって生計を維持するか、他の場所へ出ていくしか方法がない。植林の労働者として働く場合には、安定雇用が絶対条件であるが、安い賃金で雇われ退職させられる場合も少なくない。このことは、産業植林が行われる前にその土地で暮らしていた人々にとっては脅威である。このことが、1990年代後半になって植林事業への抗議活動が頻出するようになった理由である。[85]

もともと、ある土地で暮らしていた人々の土地を奪いながら進められる植林にはこのような問題も付きまとっている。産業植林をする場合には植林する土地で生活する人々が生活していけるようなしっかりとした策を持った上で臨む必要がある。

住民による慣習的森林利用(東カリマンタン州マタリバック村の事例)

住民は慣習利用林などで焼畑農業や木材伐採、狩猟、漁労、水田耕作、果樹栽培などの生業を営んできた。人々はそれぞれの世帯が川沿いに何ヵ所かの焼畑用地を所有し、焼畑農業を実施してきた。1年目は川沿いの森を切り開いて火入れをしで出作り小屋をたてて陸稲を作付する。2年目からは川からみて奥の方へ入って焼き畑農業を続けるとともに、1年目に開いた土地に木を植える。3年目以降は、さらに奥地を伐り開く。川に近い場所に用材種を植え、それ以外の場所に果樹を植えることが多い。生育に時間がかかる木を植え得る場合は、子供や孫の世代の為に植える。[86]

産業植林による住民への影響(東カリマンタン州マタリバック村の事例)

ほぼ全てのインドネシア山村がそうであったように、マタリバック村も利用・管理していた森林区域が森林事業権を取得した伐採会社に分配されてしまい、住民の同意なくして伐採が進められてきた。同時にマタリバック村の森林の一部は、移住事業連結型産業植林事業権を取得した植林会社に配分され、企業の手によって移住村の建設と森林の伐採・火入れ・植林が行われた。植林事業に関しても住民の同意を得ていなかった。[87]

産業植林がもたらす生態系への影響

植林の対象とされやすいのは荒廃地や草原である。森林官や林業技術者は、荒廃地や草原に森をつくるのは生態学的に全く問題がないと考える習性がある。しかし、荒廃地に見える土地にも動植物を含めた多様な生態系を形成し、長年にわたって地域の人々の貴重な生活資源となっている場合がある。このため、植林地の選定には、人々による選定地の土地利用の歴史や選定地の生態系をしっかり調べた上で行うべきである。[88]

産業植林に伴う2次林の伐採、火入れ

インドネシア政府は、産業植林を取得した企業に対して植林対象地内の2次林を伐採して販売する許可を出している。企業は2次林から切り出した木の販売によっても利益を出すことができる。また、高く売れない伐採後の樹木を燃やすことで植林地の土壌を豊かにすることができる。しかし、こうして行われる火入れは、1997-1998年の大森林火災の原因になっている。産業植林のための火入れは、オイルパーム農園開発の為の火入れに次ぐ森林火災の要因になっている。このようなことが行われることは、2次林にあった生態系を破壊することになるので、生物の多様性は減少することになる。[89]

森林伐採と産業植林

インドネシアの巨大木材会社(BP社)の下請けであったLPT社が、移住事業連結型産業植林事業権を取得し、村人に対する説明も相談もなく慣習保全林に含まれる川沿いの原生林2か所(合計1万5200ヘクタール)を伐採した。その結果、森林は消失し、木材や籐は手に入らなくなった。人々は森林資源を管理・利用する権利と狩猟・漁労の地域を失った。そこで、村人たちは一致団結して移住事業を拒否した。そこで、村側が会社に通知した14の要求のほとんどを会社は無視した。そのことにたいして、村人はデモを起こし、会社側から村人へ2億300万ルピアの賠償金が支払われることで合意した。[90] しかし、こうして保証金が払われることで村人の気持ちが一瞬治まったとしても、その後保証金の分配をめぐって村人たちの間に争いが起こることもあり、産業植林地を作るために村人の慣習保全林を破壊したことによる村への影響は大きい。

第4節 現地住民による植林意識の高まりと地方分権化に伴う植林政策

東カリマンタンのマタリバック村では1960年代から住民たちによる植林が行われてきた。自らの焼畑跡地などで、ボルネオ鉄木、メランティー、カプール、ドリアンなどが植林されている。

地方分権化による森林政策の転換

1999年にインドネシアでは、地方行政法と中央・地方財政均衡法という2つの法律ができ、地方分権化が進展した。地方分権化により、スハルト体制の下に築かれた中央集権体制は崩れ中央政府の機能縮小、州への権限の分散強化が行われ、行政の中心が県・市のレベルになった。また、国の出先機関が廃止され、州・県および政令市の政府に吸収された。また、地方自治体が独自に予算や事業を決定することができなかったが、中央・地方財政均衡法の成立により地方自治体が独自の予算を組んで実行することができるようになった。地方分権化の流れの中で1999年に新林業法が制定され、政府事業体と私企業にのみ与えられていた森林利用権を個人や協同組合レベルで取得できるようになった。また、共同体慣習法の下で住民は質の高い生活を送ることが明記された。企業の伐採に対して、損害の補填を求める権利も認められた。[91]

県レベルの権限拡大の現状と問題点

県レベルの権限移譲が進められ、行政と住民が近くなったことにより、住民の権利がより尊重されるようになった。しかし、県が自主財源を確保するために森林の伐採権を乱発し森林の荒廃が進んだり、広範囲の流域としての管理ができなくなったりといった問題が起こった。例えば、上流にある県が大規模に森林を伐採した結果、下流の県に洪水が押し寄せ甚大な被害をもたらした例などがあげられる。[92]

県による植林事業への応募

西クタイ県では国家の森林基金からの特別分配金を活用して新たな植林プログラムを開始した。この植林事業は住民自身が植える場所、植えたい樹種を決めて提案書を出すと県が資金を出してくれるというものである。

植林プログラム

西クタイ県は、森林基金を利用した特別分配金により植林プログラムを2002年に度に開始した。これは、税金として森林事業権保持者から1度中央政府に集められた基金を地方に再分配し、植林を実施するプログラムである。西クタイ県には308億ルピアが配布された。この予算は3つの実験的プログラムに振り分けた。第1は住民主導型の植林で81%の予算が割り当てられた。これは、住民がグループを作り、森林局スタッフなどの支援を得てプロジェクト提案書を作成する。ただし、樹種は在来樹種およびすでに市場が確立している。籐や果実に限定される。第2は会社や協同組合による植林で16%の予算が割り当てられた。第3は住民を労働者として雇う林業局直営の植林で3%が割り当てられた。これは、その年の実施成果に基づいてその年ごとに変更されていく。[93]

第5節 良質な「緑のダム」作り

 「緑のダム」という言葉がある。緑のダムとは、森林の治水機能と洪水防止機能のことを指している。ダムや堰は、水を人間の思うように利用し管理するためにある。ダムは、ダムより下流への川の流水量を一定に保つことができる。また、洪水時にも多少、川の流水をコントロールできる。水の利用は人間にとって決定的に重要である。そのことからも、ダムの存在が人々の暮らしを安定させている。この、ダムがもたらす人間への利益は疑う余地がないだろう。しかし、洪水防止のためなどに不必要なダムや堰を作ることは大きな問題がある。ダムや堰の建設には大きな利益がある半面、川の生物多様性の減少や川の景観を著しく悪化させるという問題もはらんでいる。また、ダムや堰は老朽化すれば、作り直さなければならない。これには、膨大な費用がかかる。ダムや堰は公共事業としてつくられる。これには国の税金が大量に投入される。この資金を手にするのは建設業界であるが、洪水の防止のためなどとして、不必要なダムや堰を作ることは間違っている。何故ならば洪水の防止ならば、川の上流の森林の質を改善することでダムを作るのと同じ効果を得ることができるからだ。森林は、水を吸水する速度や貯水力の高いスポンジ状の土をはぐくみます。スポンジ状になった土は、水を素早く吸収し、水は時間をかけて川まで移動する。スポンジ状の土があることにより川の急激な増水を防ぐことができるのである。

その他に、雨の3分の1は樹木に受け止められ日光によって蒸発する。また、土壌に落ちた水分の一部は木の根によって吸い上げられ葉の表面から水蒸気として蒸発する。この作用により、川に流れ出る水の量が減る。

森林の持つこの様な機能も、洪水時の水の量の減少をはかってくれる。森林の造林による洪水防止の利点としては景観を崩さない事と生態系を壊すことがなく、逆に豊かな生態系をはぐくむ事ができる。森林の造林はダムや堰を作ること以上の機能をいくつか果たすので、洪水の防止は、なるべく森林の造林によって行うべきである。これは、ダムや堰の存在を否定するものではない。ダムや堰は水の管理をする上で非常に重要なものである。       

緑のダムの機能には限界があるので、非常に強い豪雨が起これば、緑のダムだけでは洪水を防げない場合もある。[94] だが国の機関と、建設業界が癒着したような状態で無理やりに行われるダム建設や、可動堰、固定堰の建造は、行われるべきではないと思う。

良質な「緑のダム」を作るために必要な森の手入れ

森林は緑のダムとしての機能を有する。だが、森林ならどのような森林でも緑のダムとしての機能を持つのだろうかという疑問がある。実は、森林の種類や質によって、土の持つ吸水・保水機能かなり異なる。山に木が全くない場合、山の土は固くなり、山に降った雨は、山の表層を勢いよく流れすぐに川に流れ込んでしまう。山に広葉樹の天然林が分布している場合は、土は非常に吸水速度が速いため、水は山の中をゆっくりと流れるため川まで長期化にわたって少しずつ水を流すことになる。しかし、日本の山には多くの人工林が分布している。では、人工林の場合の吸水・保水機能は天然の広葉樹林よりも劣ることになる。人工林は落葉による土の肥沃化スポンジ状化が天然の広葉樹林に比べて小さいため、水が表層を流れていくことがよくある。私が神奈川県丹沢の人工林の管理をしている時も、斜面の表層を水が流れて行ったあとが川のように残っている個所をいくつか見つけることができた。その斜面は比較的急傾斜の斜面であり、水が表層を流れていきやすいことが考えられる。しかし、急斜面の山においてもしっかりと保水機能を持つ森林であることが重要である。そのためには人工林をしっかりと手入れし、健全な状態に保つ必要がある。人工林の場合は間伐・枝うちなどの森林管理をしっかりと行うか行わないかで、土が水を吸水する速度や貯水力は大きく変わってくる。具体的には人口林で強間伐行えば、間伐をしていない人工林に比べて2倍近い吸水能力を得ることになる。間伐とは、木を適度に伐採して間引くことである。木を間引くことによって、残された木は他の木との競争がないため太く健康に育つ。また、強間伐を行えば多くの光が地表に入るので地表面に下草が生えたり、広葉樹が生育してきたりする。天然林や今日間伐をおこない下草や広葉樹が地表に生えている森は、木々が様々な深さに根を下ろすため、土の中が広範囲にわたってスポンジ状になる。このような状態になることにより、土はさらに吸水・貯水機能に優れた状態になる。吉野川流域での表層土壌の貯水力の調査によると、適切に間伐した場合、貯水力が流域全体で3000万立方メートル増大したというデータがある。この貯水力を間伐1本あたりに換算すると70リットルの保水効果に相当する。このような森林による「緑のダム」機能は、洪水時のピーク流量を大幅に減少させるというデータが出ている。  

この森林の機能は、逆に渇水状態の川の水量を増大する。森があることにより、水が安定的に供給される。[95]

緑のダム機能の機能をより高い状態で維持するためには、人工林の間伐・枝うちなどの手入れをすることがとても重要であるということがわかる。そこで問題になってくるものは、森林管理にどのくらいの費用がかかるかという問題である。森林の適切な管理にかかる費用と可動堰を建設維持する費用とを比べた場合、可動堰を作る方がはるかに多くの資金がかかることになる。例として、かつて可動堰作りが提案されたが住民により可動堰造りを拒否された吉野川での可動堰造りにかかる金額と緑のダムとして森を手入れするのにかかる費用を比べてみる。吉野川に可動堰を作った場合建設費と維持費が60年で1400~1600億円かかる。それに対して緑のダム作りの為の森の手入れにかかる費用は60年間で681億円とかなりの開きがある。国は税金の削減や景観の保全、生態系の保全のためにも、洪水防止は上流部の森林の管理による緑のダムの機能向上によって行うべきである。[96] だが森林の管理というのは、実際にどの程度行われているのかしっかりとチェックして着実に実行することができるのか、という疑問を持つ人も多いかもしれない。しかし、その点に関しては全く問題ないと思う。私は、丹沢の森で神奈川県が進めている「かながわ水源環境保全・再生実行5か年計画」として行われている、「緑のダム」機能の向上のための仕事を実際に行ってきた。間伐木の選定や森の中の標準地の調査などの仕事を何度もしてきたが、間伐する木を選ぶ際は、間伐木にスズランテープを巻くなどしてしっかりとマークしその写真を撮り、間伐後に同じ場所で写真を撮り県に提出するというプロセスをとる。間伐木をどの位の割合で切るのかという情報もすべて県のほうから指示が出る。標準地をしっかりと取り標準地内の木を一定の割合で間伐していく。標準値はしっかりと図にして、どの木を間伐したのかをすべてメモして県に提出する。その際、木を数えている時の写真などもとって県に提出する。標準値の写真には標準値をとった日にち、標準地の面積、成立本数、間伐本数、間伐率、間伐場所などすべて書いた黒板を持って写真撮影もする。少しでも疑問な点があればやり直しになる。すべての仕事においてこのような厳しい管理と正確な仕事が求められており、チェック機能も極めて細かく厳密なものである。仕事をさぼって間伐をせずに、間伐したと嘘の報告をしてすむようなずさんな管理ではない。この様なことから県から指示された森林管理の仕事は正確に厳格に実行されていくと考えられる。この様な私の経験からも、行政がしっかりとリーダーシップを持って「緑のダム」作りを推進していけば、着々と森林の管理は進んでいくと考えられる。このように、森林の造林は、たんに植林するだけでは終わらない、植林という人為的な行為によって森を作る以上植林後にも人為的な管理が必要になってくる。植林をする場合すべての木が活着して育っていくとは限らない。ある一定の割合で育たない木が出てくる。それ前提として、あらかじめ多めに植林しのちに弱った木を間伐していくことで、一定の割合の森林密度を作りだすことができる。このように、森林保護は、たんに植林して終わりではなく、森が大きく育つまで継続して行われていくものなのである。管理を怠った森は「もやし林」や「森林密度の低い森」になってしまう可能性がある。森林の保護は植林だけに終わらないので非常に手間がかかる、しかし環境の保全を考えるとこの手間を惜しんではいけない。第6節では、中国における世界最大規模の造林事業について書くことにする。この造林事業は森林の持つ洪水防止「緑のダム」機能の獲得を目的として行われたものである。長江沿岸・黄河沿岸の森林伐採の結果、長江・黄河下流の町を大洪水が襲ったり、断水がおきたりした。長江の洪水では2億人以上の人が被害を受ける事態となった。この状況を重く見た中国政府が行った事業が第6節の「退耕還林」である。

第6節 南洋材と国産材の競争力の違いの原因

第4節にも書いたが、森林の吸水・貯水機能を高めるためには植林地の間伐を十分に行う必要がある。だが日本の多くの森林では、適切な間伐が行われておらず、森林の吸水・貯水機能が十分に発揮されていないままである。もし、日本において低価格でも間伐材を販売することができれば、間伐材の需要は増え積極的に間伐が行われるようになると思われる。岡本幸江は、著書「アジアにおける森林の消失と保全」の中で、[熱帯材の輸入大国として熱帯雨林の消失・劣化に貢献しながら、国内では木材が利用されないことで森林が危機的な状況にあるというのは皮肉である。国産材も、流通コストの削減と耐久性の良さをアピールすることで十分競争力がある。] と書いている。しかし、実際に日本の林業の仕事を経験している私としては、そう簡単に国産材が輸入材に対して競争力を持つとは思えない。その理由として、日本の森林は、熱帯雨林地域といくつかの異なる点がある。

  • 日本の森林の多くは山の中に形成されており、伐採した木々を麓に下ろすのに、大変な手間と費用がかかる。
  • 日本の森林の有用材の多くが戦後に植林された杉や檜である。これらの木々は、熱帯の植物に比べて著しく成長が遅く、木材として使用できる大きさに成長するまでに、多大な時間と管理費用がかかるということ。
  • 日本は、熱帯雨林が広がる地域に比べて人件費が高く、結果木材の価格も高騰せざるを得ない。
    • ~③の問題が日本の木材の価格を高騰させている要因であると考えられる。

岡本幸江が、著書「アジアにおける森林の消失と保全」のなかで、[熱帯材の輸入大国として熱帯雨林の消失・劣化に貢献しながら、国内では木材が利用されないことで森林が危機的な状況にあるというのは皮肉である。] と述べているのは、日本の森では間伐材が利用されないことにより、森が荒廃し劣化しているという問題に注目していると思われる。間伐材をしっかりと日本国内で消費できる体制を作っていくことが、熱帯雨林の保全と日本の森の保全の両方に役立つ非常に重要なことであると書いているわけだ。そのこと自体は、的を得ていることであり、また非常に重要なことである。できることならば、日本の間伐材が日本国内で消費されることは極めて望ましいことであると思う。国産材の利用は、輸送の際に排出されるCO₂の削減という観点からみても、とても望ましい。しかし、現実には国産材は日本国内であまり流通しておらず、結果として日本の森が荒廃する原因になってしまっている。日本の国産材が消費されない最も大きな原因は、上に記した①と③にある。簡単に言えば、①と③により、日本の国産材は高価格にならざるをえず、安い南洋材に対して競争力がないのである。③でいえば、熱帯地方と日本とでは、10倍ほどの人件費の開きがある。また、①のような日本国の地形に関する問題も非常に大きい。日本における木材の集材は、「ヘリコプターを使う集材」、「架線による集材」、「大規模な林道開発を伴う集材」、などがあげられる。実は、このどの方法をとっても、多額の費用がかかることになる。まず、「ヘリコプターを使う集材」だが、これは、山にヘリコプターを飛ばし、空からワイヤーを下ろし、事前に山の中に入っている作業員がワイヤーを木にくくりつけ、1度に3~4本の木を吊り上げ、土場に下ろしていくというやり方である。土場にいる作業員は、土場に山積みにされた木々の上に駆け上り、木にからみついた重厚なワイヤーを手作業で外していく。この作業をヘリコプターが新しく木々を吊って戻ってくるまでに終わらせる。ヘリコプターのスピードは速く、すぐに木を吊って土場に戻ってくるので、一瞬も休む暇がなく、走って木々の山に駆け上り、急いで絡み合うワイヤーを外し、ヘリコプターが来る前に走って逃げるという作業を1日中繰り返す。ヘリコプターが釣り上げる木々は20~30mはある杉や檜の大木であり、まだ乾燥しておらず水分を豊富に含んだ生の伐採木は、想像をはるかに超える重さである。私は、この作業の中で土場に積み上げられた木々にかかったワイヤーを外す係だったが、山積みされた木々が崩壊して大木に太ももを挟まれ、足を一本失うところであった。私はあまりの作業の過酷さに体調を崩した。この作業は木の山が崩壊する恐れがあり極めて危険である。土場に下ろした木々は重機をつかいトラックに積み、町の市場へ運んで行く。このヘリコプター集材では、ワイヤーの長さが限られていることもあり、一度に3~4本吊あげられるとは限らない。2本しか吊あげられないこともある。また、現場は非常に苛酷なうえ、極めて危険な作業である。このような労働環境であるため、作業員にはそれ相応の報酬を支払わなければ作業員が集まらない。このような理由で日本のただでさえ高い人件費はさらに跳ね上がる。また、ヘリコプターは山と土場を1往復するたびに約10,000円の費用がかかる。木を1本5000円で売ったとして平均3本吊り下げてくると1回ヘリコプターが往復すると売上が15000円、そのうちヘリコプターの費用で-10,000円、山の木の購入する値段、そのほか人件費がかかるため、全く利益が出ない。私の参加したヘリコプター集材では20人が作業をした。次は「架線による集材」である。ジグザグ集材とも呼ばれるこの集材方法は、山の中に金属のワイヤーを張り巡らせて、そのワイヤーに木を吊り下げ、麓まで一本一本下ろしていくというやり方である。通常膝ぐらいの高さにワイヤーを張って木を下ろすのだが、ヘリコプターの集材と違い膨大な時間がかかる。ヘリコプターを飛ばす費用はかからないが作業日数が延びることで人件費が膨らむので、ヘリコプター集材と費用面でもさほど変わらない。山のどの場所の木々を下すかによってヘリコプター集材と使い分けることになる。この架線集材でも、膨大な費用がかかるため林業会社に利益がでるか赤字になるかわからない。最後は「大規模な林道開発を伴う集材」である。熱帯雨林で主に行われているのがこの方法である。熱帯雨林の広がる平野に林道をひいて、林道沿いの木々をどんどん伐採しながら重機で伐採木をトラックに積め込んでいく。熱帯雨林ではこのままトラックによって運ぶ方法と、川沿いの木々を伐採して船によって運ぶ方法とがある。いずれにしても非常に効率がよく、利益が出やすい。しかし、これを日本でやろうとするとこれもなかなか難しい。平地に林道を作るのと、山の中に林道を作るのとでは作業の難易度、効率ともに全く違う。山の中の林道は、山の谷側の崩落の防止、山の山側の落石の防止などに多大な費用と手間がかかる。また、蛇行させながら山の中を切り開いていく林道は急な斜面での作業になることもあり、その作業は、平地の林道開発とは比べ物にならないほど手間がかかる。1度林道ができてしまえば、その周辺の木々を運搬、販売することはできるが、林道を作る労力を考えると、簡単には工事に踏み切れない。

日本の国産材は高いといわれているが、その高いといわれる値段で木材を搬出していても林業の会社には全く利益が出ない。そのため、日本の林業会社は山の木々の搬出、販売に積極的になれない。それが、日本の林業会社の多くが日本の山から木々を搬出して販売したがらない原因である。日本の、国産材はこのような様々な要因により価格が高騰し、国内での消費が滞っているのが現状である。しかし、余った間伐材をどうにかして利用しようという試みは日本の企業の中にもある。私は2007年12月15日に東京ビックサイトに足を運んだ。そこでは、環境問題に様々な形で取り組む企業が集まり、各社それぞれの環境問題対策の取り組みに対する展示を行っていた。100社近くの会社が集まったその展示会で私は、間伐材を利用して様々なサービスを生み出すことを模索している企業をいくつも見ることができた。間伐材を一度粉々に粉砕してから特殊な接着剤材木の形に圧縮成形することによって建物の柱にも使えるだけの強度を兼ね備えた材を生産している会社や間伐材や落ち葉を原料にしてバイオプラスティック製造する会社など各社さまざまなアイディアを出して間伐材の利用を試みていた。とはいっても、間伐材を利用して利益を出すことの難しさから日本の山の中では多くの間伐材が切り倒されたままの形で放置されている。今後、間伐材を有効利用する技術が次々に生まれることにより日本の森林利用が活性化し、日本の森が健全化することを期待したい。また、日本において間伐材が利用されるということは日本が輸入する熱帯雨林由来の木材の量が減少し、熱帯雨林の保全に役に立つということができる。間伐材の利用は今後日本が考えていかなければならない課題の一つということができるだろう。

 第7節 中国における大規模植林政策  -熱帯雨林の保全への先例として-

中国政府は1999年より「退耕還林」とよばれる造林事業に踏み出した。中国政府が実施する退耕植林とは、主に長江と黄河流域の傾斜角25度を越える急斜地および砂漠化地域に存在する農地約1500万ヘクタールの耕作を停止し(退耕)2010年までの10年間に1700万ヘクタールの荒廃地と併せ、合計3200万ヘクタールに造林を目指す(還林)というプロジェクトである。3200万ヘクタールは日本の総面積の約85%に相当する。1500万ヘクタールの退耕によって、少なくとも1億人以上の農民が農地を部分的に放棄し、それを植林地に転換するプロジェクトに動員されることになる。これは、世界の林業史上最大の造林プロジェクトである。この造林プロジェクトは表土流出防止と洪水制御目的の森林造成であり、日本で言われるところの「緑のダム」に相当するものである。[97]

 政府が退耕還林の実施に踏み切った原因は、黄河の断流と長江の洪水被害の頻発にある。中国では急傾斜地の過度な開墾による表土流失によって年50億トンもの土壌が失わされており、それによる洪水災害も頻発している。長江と黄河で流出する土砂の3分の2は急斜面の開墾地から流れたものであると推定される。黄河では、農地開墾の結果、水源林が激減して保水力を失ったうえ、農業用水の需要が増え、下流域では水が全く流れない「断流」現象が頻発し、1972年には19日間、1997年には226日間も断流が起こった。一方、長江流域では耕地が極限まで開墾され、森林の消失と激しい表土流出が引き起こされた。長江の上流部である四川省の西部と雲南省の北部の高原地域の森林率は、1950年代初頭の50%から21.9%にまで急減した。その結果長江流域だけで年間16億トンの土砂が流出し、土砂が川底やダム、湖に堆積して、流域の貯水能力を低下させている。政府は長江流域の森林破壊と農地開墾が1998年の長耕大洪水の被害を大きくした最大の原因であると認めている。この洪水被害が直接の契機となり天然林保護と退耕還林など一連の保護・修復の政策を打ち出したのである。[98]

退耕還林政策の歴史

 中国においての退耕還林政策は1963年4月に国務院が発布した「黄河流域の水土保持事業に関する決定」にはじまる。この決定では、個人・集団・政府機関・国営農業の開墾した急傾斜地について、厳正に処置し、耕作を停止させる。森林を切り開いて開墾した場合、開墾した機関あるいは個人が植林する責任がある、と明記されている。しかし、このようなスローガンだけでは、実際に植林を実施されることはほとんどなかった。その反省により1999年からの退耕還林では造林する農民に対して食糧と現金の補助が行われることになった。これは2000年の国務院令第278号第15条により、法律的に定められた。食糧補助が可能になったのは、政府は食糧増産を最重要課題として取り組み、天候にも恵まれたため、中国の食糧生産は不足から増加に転じた。2000年には食料の在庫は2億トンになり、政府は過剰食料の貯蔵と食糧価格の低下に悩まされていた。政府は、造林事業に参加する山間限界地の農家に穀物を補助して穀物在庫を調整して、穀物価格の下落に歯止めをかけることを考えた。政府は退耕植林によって、造林政策と同時に食糧管理政策も同時にやることを考えていた。[99]

退耕還林に同意した農家に対する報酬

 1999年からの退耕還林では、退耕還林に同意した農民に対して報酬を与えることにしている。これが、今回の退耕還林を急速に進めるシステムであると考えられる。その具体的な内容を見てみると、長江上流域では1ヘクタールを退耕還林させた農家には年間2240キログラム。黄河上流では年間1490キログラムの穀物が支給される。現金補助は、1ヘクタールあたり年間4500円程度である。食糧と現金の補助期間は、果樹などの農業目的の経済林を植栽した場合は5年間、用材樹木など生体回復目的の生態林を植栽した場合は8年間と定められた。[100]

樹木の選定

政府は、用材樹木を中心とした生態林の造成を重視する方針を打ち出した。生態林と経済林の造林割合が8対2となるように指示している。農家のインセンティブを高めるためには、果樹・香料・製紙原料・茶樹・漢方薬材などの有用な経済樹種を増やさねばならないと考えている研究者は多い。しかし、経済林は保水力や表土保持機能が低いので政府は生態林の比率を高めようとしている。[101]

苗木供給の問題

苗に関しては、国が退耕還林に無償で支給することになっている。育苗費用は1畝当たり50元とされ、中央政府の財源から直接支給する。ここで、苗を自主的に選定してもらうか、政府機関が選定して統一的に農家に分配するかで意見が対立する。農家に苗を選定してもらうと、選定する品種がバラバラで統一的な栽培指導が難しくなる。農家は圧倒的に経済林の苗を選んでしまう。また、農家は50元の種苗費を着服して品質の良い苗を購入しないなどの問題がある。また、逆に政府による統一的苗の配布を行うと、農家は好まない苗を与えられた場合大切にせず、競争の動機が働かず、造林がうまくいかなくなる可能性がある。[102]

間作の問題

 農家は間作を強く希望しており、違法であっても間作を実行している場合がある。生態修復を重視する研究者は、土壌流出を防ぐために間作を停止すべきだという。間作を認めるべきだという論者は、退耕直後の増収、施肥や除草へのインセンティブの増大、大豆間作による窒素固定と苗木の生長を促進するなどを指摘している。[103]

中国古藤村での退耕還林の歴史

古藤村で退耕還林が始まったのは2001年のことである。農地の78%を退耕還林の対象にしていた。古藤村では条件のいい22%ほどの耕地を残して、他の農地はすべて植林地に転換された。清の時代に書かれた「黔西州誌」において古藤村は人間のいない渓谷の多い森林が広がっており巨大な岩石が存在すると書かれている。中華人民共和国の建国後にいたっても、古藤村全体が黒いポプラの森と呼ばれており耕地以外は依然として原生林に覆われていた。しかし、建国後における毛沢東主導による、大躍進政策により急速な農業集団化(人民公社化)と農村での鉄鋼生産計画が立案され、大量の木材が製鉄用燃材として伐採された。古藤村については58年から60年の3年間、で原生林はすべて伐採されつくした。大躍進政策の過程で、穀物不足が深刻化して飢餓が発生し古藤村が属していた人民公社でも100人近い餓死者がでた。こうした中飢餓を回避しようと、急傾斜地を開墾する農家が激増した。最初のうちは、土地も肥沃だったため、多くの作物を栽培することができた。しかし、森の無くなった傾斜地の土地は雨が降るごとに川に流れ、透明だった川が黄色に変色するくらいの大量の土砂が川に流れ込み下流に運ばれていった。そのせいで、数年後には岩盤が露出した痩せた土壌になってしまった。そのため、土が痩せすぎて耕作を放棄せざるを得なくなっている開墾地がでてきた。土壌が流れ尽くして岩盤が露出し耕作が放棄された状態は中国では「砂漠化現象」と呼ばれている。当時の人々は、毛沢東主席の言うことは絶対に正しいと純粋に信じ込んでいたところもあったが、毛沢東の行った大躍進政策は住民や環境に対して多くの問題を引き起こしてしまった。[104]

退耕還林導入のインパクト

古藤村では平均して自分の農地の78%を植林地に転換していた。古藤村の場合、政府が配った苗木は、生態林が88%、経済林が12%であり、表土流出を防ごうとする政府の姿勢が表れていた。植栽されている代表的な樹木は雲南松、柳杉、雲南ポプラが主なもので全体の63%を占めていた。経済林の苗は、桃、スモモ、花椒が主なものであった。[105]

退耕還林を受け入れた理由 

政府の指導政策だから      34人 53.1%

生態悪化・表土流出を防ぐため  28人 43.8%

食糧補助・補助金を貰えるため  26人 40.6%

他の人が同意したから      18人 28.1%

自分の為だと思うから      17人 26.6%

労働を軽減するから       16人 25.0%

化学肥料の出費が少なくなるから  8人 12.5%

村の景色を美しくするため     7人 10.9%

林業や果樹経営でやっていけるから 3人 4.7%      左の統計[106]

退耕還林によって農業の労働時間が半分から3分の1に減った。造林・除草・捕植など労働時間がかかる植林1年目ですら農業に比べれば労働量は少ない。これは多くの農家にとってメリットである。しかし、大事な問題は退耕還林が終わる8年目以降どのように生計を立てていくかということである。[107]

8年後の不安

退耕還林の受け入れ農家たちがもっとも不安に思っているのは、食糧補助が終了する8年後の事態である。

8年後の補助期間終了後はどうするか

また開墾する    28人 43.8%

わからない、不安  17人 26.6%

出稼ぎ       17人 26.6% 

畜産        12人 18.8%      

林業        11人 17.2%

果樹経営       6人  9.4%

子供に頼る      5人  7.8%

もうすぐ死ぬから   4人  6.3%

観光業に転換     2人  3.1%

※上の表[108] 

前ページの表でも示したように、退耕還林の補助期間が終了した後は、再び開墾するという人が多かった。再び開墾しないことには食べていけないため、現実的に考えて再び開墾することになるであろうと考えている。再び開墾するということは、一度植えた木々を再び切り開くことになる。もし、退耕還林の補助期間が終了して、人々が再び土地を開墾し始めたら、傾斜地に植林した意味は全くなくなってしまう。木材を伐採して収益を上げるには8年以上の時間がかかるため政府は、補助期間の終了後も植林地の開拓をしなくても生活していけるような指導と政策をとっていくことが必要になる。具体的には政府が低利融資制度を設けて、畜産、林業、果樹、漢方薬草などの新期事業への投資を支援することがあげられる。[109]また、古藤村のある貴州省は、チベット自治区に次いで貧困である。人口3658万人で農業人口が85%以上を占める貴州省は人口密度で全国平均の1.6倍あり、一人当たりの耕作面積が全国の平均の半分しかなく、耕地46%以上が15度以上の傾斜地にある。この様なことを考えると、人工過疎地への移住政策をとることも必要かもしれない。もともと農民ということもあり、開拓できる土地さえ与えることができれば、農地を開拓していくことができると考えられる。政府が中国の一部の土地を買い上げて、住民をその土地に移住させるといった政策をとるなどのことも必要になるかもしれない。また、植林した木々の枝うち、間伐、などの管理を住民に任せ、それに合わせた生活していけるだけの補助を農民に支払、持続可能な林業経営ができるまで継続して支援し続けていくという方法も考えられる。そのためには、多額の費用が必要になるが政府にはその覚悟が必要である。木々を伐採して利益を得るのは簡単だが、一度破壊された森林を再生するためには、伐採して利用する費用よりも高くつくことになる。[110]

退耕還林後に始めたい事業

畜産   44人 68.8%

出稼ぎ  26人 40.6%   

林業   10人 15.6%

現状維持  8人 12.5% 

自営業   3人  4.7%

※ 上の表[111]

上の統計のように退耕還林後は畜産をやりたい人が多い。また、出稼ぎを希望しているのは50歳以下の若い人に多く、林業・現状維持は50歳以上の人に多かった。[112]

退耕還林後に労働時間が短縮したことにより、余った時間をどのように使っているか

出稼ぎ                  28人 43.8%

畜産                   14人 21.9%

植林地の管理               12人 18.8% 

休息・娯楽                12人 18.8%

林間での作物栽培(違法、正直に答えた人)  5人  7.8%(実際には30%以上)

自営業                   4人  6.3%  

村の公的業務                3人  4.7% 

新しい事業への調査と構想          2人  3.1%

家事・育児                 2人  3.1%

農業賃労働                 2人  3.1%

他の人の畑を借りて耕作           1人  1.6%

何も変わっていない             1人  1.6%

出稼ぎと言っているのは、主に近辺の公共事業の現場での日雇い労働のことである。

退耕還林後は、畜産をやりたいと言っている人が多いが、実際には多くの資本金が必要なため困難である。畜産を始めるためには、牛や豚や鳥を買う資金が必要である。また、今まで農家として生活してきた人々なので畜産の経験はない、もし家畜を大量に死なすことになってしまったら取り返しがつかないというリスクがある。また、放牧することが法律で禁止されているので餌の確保が難しい。実際は出稼ぎで資金を稼ぐことになるが、出稼ぎを長く続けたいと思っている農民はいない。出稼ぎは日給180円~225円でその日暮しをすることしかできない低賃金である。また、出稼ぎをしても雇い主に騙されてお金を支払ってもらえなかったりする。農家は出稼ぎではなく、農業や畜産などの自営の仕事を求めている。[114]

植林の対象となる土地は農民の請負地であり、植林後も引き続き請負地であり続ける。中国の請負地は法的には村の集団所有地であり、村が各農家世帯に対して、使用権を分配し、世帯単位での経営が営まれている。しかし、この請負地は、国、村、農家の各主体が「所有権」を分担して有していると考えられ、唯一絶対的な所有者は存在しない。退耕還林として植林をすることになった土地も経営権は引き続き農家に存在している。植林した樹木も最終的には農家の資源になる。しかし、中国の退耕還林においては土地の経営権は住民が持っているにもかかわらず、インドネシアのジャワやミャンマーでの植林事業と違い、林内での間作が禁止されている。しかし、退耕還林政策によって果樹などの非木材産物を植栽した場合、収穫は自由で、農家の収益が保証される。ジャワやミャンマーの造林では、植栽した樹木の所有権は国家が独占する。ただ、ジャワやミャンマーでは、中国の退耕還林政策と違い、たとえ国有林の中でも間作が認められている。また、フィリピンの請負造林計画やベトナムの国家植林計画では、地元住民の植林労働に対して賃金が支給されている。フィリピンでは3年間、ベトナムでは4年間の賃金支給期間がある。しかし、中国の退耕還林政策では、8年間の賃金支給期間があるので賃金補助の面においては、他国よりも充実していると思われる。しかし、これは植林地の林間内への間作を禁止していることもあり、その分資源への所有権が保証されていると考えることもできる。

また、政府から支給される食糧だが、秤を細工することで実際よりも少ない量しか、もらえなかったりといった政府による汚職も問題になっている。[115]

だが、中国の退耕還林では、植林作業と林地の管理は、農家の世帯単位での自発的な労働に任せている。80%の活着率さえ満たしていれば、食物か現金の補助を受けることができる。[116]

退耕還林で植林した林地には間作も放牧もしてはならないと政府は決めている。しかし、林地に間作をすることにより、作物の為に肥料を与えることが行われ、周りの木々も大きく生長するなど、間作をした方が様々な面でいい効果をもたらすと住民は感じていた。そのため、実際には隠れて間作を行い、政府の調査が来る直前に収穫をするということが行われていた。また、政府の意図を支持する側の村の幹部も、間作に対して見て見ぬふりをすることが多々あった。間作を行っていない人々の地域では牛舎や豚舎に堆肥が蓄積してしまうという問題が起こった。牛舎や豚舎からでる堆肥を有効活用するためにも間作を行い、植林地に堆肥を撒くことはとても重要である。また、間作を行わないのに、植林地に堆肥を撒くような労働は住民はやりたがらない。

政府による苗の供給に対する住民の反発

政府から支給されている雲南松や柳杉、雲南ポプラは用材としては非常に安い。そこで、農民たちは、梓という高級な郷土樹種を植えたかった。そのために農民たちは、自分たちで苗を生産し植林するための資金の援助を政府に提案したが、拒否された。理由は、農民たちでは優秀な苗を作ることができず、苗を全滅させてしまうと政府は予想していた。しかし、実際には政府から送られてくる苗の質も良いものではなく、農民たちは自分たちで作った方が良いと考えている。しかし、あらゆる面において政府、つまり退耕還林を推し進めているフォレスターは農家の人々を信頼していないことがあげられる。いやいやながら、政府から支給されている苗を植えている状態では農家の人々が木々を大切に育てないという現象が起こる可能性がある。[117]また、政府は適材適木を知っているか、という疑問もある。政府の供給する苗の活着が悪い場合もあり、農家の人々の方が着生する苗をよく知っている場合もある。しかし、政府は自分たちの信じる方法でしか退耕還林を進めようとはしていない。[118]

退耕還林を受け入れた農家が8年後に植林した木を伐採して開墾しないためには、植林した木が高価格で売れて、持続的な林業経営が成り立つことが必要である。しかし、現在国産材が不足している中国は、ロシアやインドネシアから大量に安く木材を買っており、世界1位の木材輸入国となっている。この事で国内の木材の価格を下落し、退耕還林政策を行った農家が林業経営で生計を立てていくことができなくなる危険性がある。この様なシナリオを回避するためには、外国の木材の輸入を抑える必要があるが、WTO(世界貿易機関)はこのような輸入管理政策を許さない。つまり、WTOは違法伐採などが行われているロシアやインドネシアなどの木材伐採を後押しし、中国などの植林事業の利益を奪っているということができる。これは穀物についても言えることであり、外国の安い穀物が入ってくることで、ただでさえ暴落している穀物の値段がさらに暴落する危険性がある。それを防ぐためには、外国の穀物を政府が高値で安定させる必要があるが、WTOによる関税率の引き下げによって、穀物の暴落を引き起こす危険性がある。[119]

第8節 森林は保全すべきか植林すべきか

 森林を守る方法には、森林を伐採し木々を資源として使いながら木々を植林し、森林資源を持続的に生み出していくやり方と、森林を伐採することなく保全していくというやり方がある。森林を伐採することの利点は、木材資源を利用できるという点である。一方、森林を伐採せずに保全をする利点は、森林内の生物多様性が保たれ、果実や燃料、動物などがとれる。また、継続して洪水を防止する効果、観光地としての価値、景観の美しさ、などの利点がある。私は個人的には森林伐採の後の植林にも、森林保護にも利点はあると思う。私の個人的な考えでは、木材を生産する植林地と、天然林を守る国立公園などを明確に分けることが大事だと思う。政府は天然林の伐採には強い制限を設けて、森林の伐採は、なるべく植林地で行うようにすべきだと思う。私以外の研究者の考えとしては、ジェフリー・ヒールの意見を記述しようと思う。ジェフリー・ヒールは、森林伐採の後の再植林よりも、森林保護の方が大切であると著書「はじめての環境経済学」で述べている。その理由としては、大量の炭素貯蔵庫である森林を伐採することで二酸化炭素が排出される事。また、生物多様性が著しく減少することを挙げている。しかし、再植林をして、森が十分に成長すれば、一度排出された二酸化炭素は、木が幹の形で固定するので、排出した二酸化炭素を最固定することが可能である。だが、生物多様性については一度原生林を伐採すれば著しく生物多様性が減少するので、原生林を伐採する主な問題は、生物多様性の減少ということにあると思う。

 ジェフリー・ヒールが著書「はじめての環境経済学」の中で述べていることに、京都議定書による森林保護政策には、森林伐採と再植林についてお金のやり取りが行われる。森林伐採は二酸化炭素の排出とみなし、再植林は二酸化炭素の吸収とみなしている。熱帯雨林保有国は毎年大量の二酸化炭素を熱帯雨林が吸収しているが、そのことに対しては、世界中のどの国も熱帯雨林保有国に対してお金を払っていない。ジェフリー・ヒールはそのことが問題であると考えている。熱帯林はただあるだけで大量の二酸化炭素を吸収するにもかかわらず、そのことへのインセンティブがまったく熱帯雨林保有国に入っていかないのである。そのことが、熱帯雨林保有国が熱帯雨林を安易に伐採してしまう理由であると述べている。全世界的に見て二酸化炭素の吸収という重要な役割を果たしている熱帯雨林も、その熱帯雨林を保有する国にとってはほとんど利益になっていないのである。しかし、熱帯雨林の保有量に対して世界から資金を払うと、森を有していない国の負担が多くなるとジェフリー・ヒールは述べているが、私は多少の負担は仕方がないと考えている。むしろ、そのような負担があることで、資源を大切にし、森を保全しようという動きが強くなればいいと思う。しかし、ジェフリー・ヒールの考えるシステムは少し違う。森を保有しない国の負担を少なくするためにも、熱帯雨林保有国の政府が何の森林保全政策をとらなかったときの森林減少量の推定値と、森林保護政策をとった場合の実際の森林減少量の差を森林生産量として、二酸化炭素吸収量に計算しようという考えである。この方法であれば、これからどれだけの森林を保護できるかということが問題になるので、世界の熱帯雨林保有国は、森林保護に積極的になると思われる。しかし、この制度には、将来どれだけの森林が減少するのかという予想値を出さなければいけない。これでは、どの政府も、実際の森林の予想減少量よりも多くの森林が減少するというような見解を発表する可能性が高く、未来の森林減少の予測に対する信憑性がない。ただ、NGOや国際機関がその国の森林減少について正確に予測することが可能であれば、極めて有望な制度の1つになると考えられる。[120] また、今後は木材生産だけではなく、様々な非木材サービスの販売を拡大していく努力が必要となるだろう。[121]

第9節 熱帯雨林の保全がうまくいかない理由

熱帯雨林の生み出す利益には様々なものがある。( )内は利益を受ける者

① 伐採して消費する (伐採を実行する労働者、伐採許可を出す政府、伐採して木材を加工する業者、伐採した木材を流通させる業者、加工した木材を販売する業者、加工した木材を消費する消費者)

②熱帯林でとれる食糧や資源(熱帯雨林に暮らす住民、資源を消費する人)

③観光資源 (現地の住民、熱帯雨林に観光に行く人)

④景観を美しく保つ (現地の人、観光に訪れる人)

⑤水を持続的に供給する (川沿いの住民)

⑥洪水を防止する (川の領域に住む住民)

⑦生体系を維持する (観光に来る人、生体資源を消費する現地の人間)

⑧地球全体の大気の生産 (地球に住む全ての生物)

熱帯雨林が存在することでの⑤~⑧の利益に対しては、利益を受けるものがお金を払うことがない。そのため、多くの人がお金を得ることができる森林伐採を多くの人が行おうとする。私の個人的な意見を言えば、世界中の人は、森林の保全の活動をするひとにお金を支払うべきである。問題は雇用を作ることである。もしも森林を伐採しなくなれば木材産業の人々は仕事がなくなり飯が食えない。今まで木材産業に勤めていた人は、政府の主導により木材を保護する仕事を与え、世界中から税金などの形で資金を集め、森林保護をする労働者へ支払うべきだと思う。

終わりに

私が熱帯雨林に対して抱いていた印象は、うっそうとした森の中を無数の昆虫が飛び回り、数々の哺乳類を見ることができる森で、木の樹高も高く、日本では見られない樹木が沢山生えている森という印象でした。また、多くの人が同じ印象を熱帯雨林に持っていると思います。しかし、実際の熱帯雨林は、私が思っていた想像と少し違う部分もありました。また、数々の文献を読んでいく中で熱帯雨林への知識が深まり、違った見方で熱帯雨林を見ることもできるようになりました。私がインドネシアで見た熱帯雨林では、昆虫の姿はほとんど見ることができませんでした。それは私が熱帯雨林に行く前に抱いていた昆虫が飛び回る森とは違う印象でした。その時は他の地域の熱帯雨林に行けば、多くの昆虫を見ることができるものだと思っていました。そういう意味では、最初にジャンブールの森に行った時には熱帯雨林とは違う森に来てしまった。という少しがっかりした印象を持ちました。日本に帰ってきていろいろな文献を読んでいた時に、井上民二の書いた「熱帯雨林の生態学」という本に出会った。井上民二は、昆虫の研究が専門ということもあり、熱帯雨林の昆虫の事を詳しく書いていた。そこには、熱帯雨林では、ほとんど昆虫を見ることができないということが書いてあった。熱帯雨林の昆虫のほとんどは、木の樹冠部分に生息しており、地上から昆虫たちの姿を見ることはできないということでした。確かにそのことは、間違いないと思われる、熱帯雨林の中を5時間歩きまわったが、見つけた昆虫は一種類のトンボと地面を歩くアリぐらいのものだった。また、数々の花が咲き乱れる熱帯雨林という期待も裏切られた。私が行った時に開花していた花はわずかに数種類しかなく、日本の森の方がよっぽど花が多いように感じられた。しかし、それもそのはずで井上民二によれば、インドネシアの熱帯雨林の花々は4、5年に一度一斉開花という現象を起こす。これは、文字通りある限られた時期に様々な種類の花が一斉に咲き乱れる現象である。逆にいえば、この一斉開花の時期以外の時期では、ほとんど花を見ることができないそうである。その他では、熱帯雨林の方が同じ面積の温帯林よりも大量の炭素を貯蔵できることや、熱帯雨林の木々のほとんどが被子植物である事など集中的に熱帯雨林のことについて勉強しなければ、知りえないことをたくさん知ることができた。現地の本物の熱帯雨林を見るという経験により、さらに熱帯雨林のことについて詳しく調べたいと思うモチベーションになったと思います。

熱帯雨林は当初私が思っていた雰囲気とは少し違うものではあったものの、その樹木の迫力や森の生命観などには圧倒された。熱帯雨林は観光資源として大きな魅力のあるものだということができる。事実、私が行ったインドネシアの西ジャワに位置するボゴールの熱帯植物園には、インドネシアの人々をはじめ、いろいろな国の人々が観光に訪れていた。園内には沢山の観光客がいて、人々の熱帯雨林への関心の高さがうかがえる。また、熱帯雨林は、観光資源としての価値以外にも、地球環境を保全する機能もあわせもっている。特に最近問題の深刻さが明るみに出てきた地球温暖化を考える上で、森林の役割は非常に大きなものである。何故ならば、木は大気中の二酸化炭素を光合成によって消費し、幹に炭素を固定するので、大気中の二酸化炭素濃度の減少に一役かっている。特に、成長著しい若い木は多くの二酸化炭素を吸収し幹として炭素を固定している。一年中太陽の日差しを受けて急速に成長する熱帯雨林は、特に大気中の炭素の固定能力が高い。先進国などでは、森林が増加しているところもあるが、地球上では発展途上国に多くある熱帯雨林の減少が著しい。この事が地球全体として森林が減少している要因になっている。また、熱帯雨林は寒帯林や温帯林と比べて多くの炭素を森林内に固定していることも考えると、これ以上の熱帯雨林の減少に歯止めをかけ、逆に熱帯雨林を造林していくということが、地球温暖化を解決する手段として非常に重要な事の一つであることは間違いない。

この論文では何故熱帯雨林が減少しているのか、その原因についても多角的に論述してきた。熱帯雨林の減少の原因は大きく分けて二つある。一つは森林の伐採であり、もう一つは、森林火災である。この二つが熱帯雨林減少のほとんど全てであるということができる。しかし、森林伐採にしても、森林火災にしてもその原因は様々である。細かく見てみると。森林伐採においては、許可なく森林が伐採される違法伐採、アブラヤシのプランテーション栽培地獲得のための皆伐、農地拡大のための伐採、産業植林地を得るために行われる森林伐採など様々な原因により森は伐採されている。また、違法伐採と言っても様々な原因がある。建築材やパルプ材を不正に得て販売する場合や、もともと慣習的に利用していた森が、突然政府によって奪われ慣習的な利用が違法とされてしまった場合など。違法伐採一つをとってもその原因は極めて多様である。農地拡大のための伐採も持続的に行われていれば森林減少につながらない場合もある。森林火災についていえば、インドネシアでは自然発火による火災はほとんどない。ほとんどの森林火災は、人為的なものだと言われている。アブラヤシなどのプランテーション栽培を行う際に、てっとり早く栽培地を作るため、違法ではあるが伐採後の残木を燃やすことが行われている。この火入れが人の手を離れ、周囲の熱帯雨林に延焼することがある。また、農民が焼畑農業で火を使用した際に周囲の熱帯雨林に延焼することもある。このように、熱帯雨林が減少するプロセスは、多岐にわたり複雑である。また、様々な利害関係者が関わる熱帯雨林の減少を抑制することは難しい問題である。何故ならば、本来違法伐採や、違法な火入れの取り締まりを行うはずの、警察や軍、政府は、賄賂を貰うことにより、違法行為を見て見ぬふりをしている場合が数多くあるからだ。そこまでして、森林を伐採する理由には、森林を伐採することで利益を得ている人が数多くいる為である。今の現状では森林は、造林や森林の管理・保護をするよりも、伐採したほうが多くの利益を生み出せる状態になっている。これでは、貧しい住民や利益を追求する企業、森林伐採権の発行などで税収を得る政府が森林の伐採を推し進めていく事は当然のことだといえる。世界中の森林は、木材資源として以外にも人間に様々な利益を与えている。酸素の供給や、二酸化炭素の吸収、美しい景観、多様な生物のゆりかご、新しい科学技術や薬の原料の提供など様々な恩恵を私たち人間は森から得ている。しかし、その様な森林からの恩恵は人間皆が森林から得ているものであるのにもかかわらず、森林の人類への恩恵に対して、人々は全くお金を支払うことがないのである。これが、森林減少が続く原因である。存在するだけで多くの利益を人間に提供する森林にたいしては、その保護、造林を行っている人々に対して必要なだけの十分な金銭を払う必要がある。その費用は、地球の人間一人一人が負担するべきだと思う。しかし、地球の人間が一律に均一のお金を支払うという制度には無理があるので先進国を中心に、世界中の森林の保護や保全のために必要な資金を集めるべきである。また、集めた資金が的確に使われる為のチェック体制もしっかりと構築し、実施していかなければいけない時期に来ていると思う。これは、先進国の比較的豊かな国が中心となって、各国から集められた資金を投入して森林の保護・保全を進めていくべきだと思う。今まで森林を伐採することで利益を得てきた人々が、これからは森林を保全することで利益を得ていけるような仕組みに転換していくことが必要だと思う。具体的には国際連合のような国際森林保護機関をつくり、世界各国から集められて資金を投入して、森林管理と保全を進めていく必要があると思う。森林の持っている、酸素の供給機能や、二酸化炭素の吸収、新しい科学技術や薬の原料の提供などの機能は、熱帯雨林や森林を保有している国の枠を飛び越えて、世界全体に対して利益をもたらしているため、森林をあまり保有していない国から、森林を多く保有している国へ、各国の森林面積に応じて資金が流れる仕組みが必要である。そうなれば、どの国もこぞって国内の造林事業に取り組むようになると思う。国内の森林面積が大きければ大きいほど、他国から資金が流れ込むことになる。各国の森林面積の計量は中立機関である、国際森林保護機関が計量し決定するような仕組みを作ればいいと思います。これからは、二酸化炭素の排出だけではなく、森林に対しても資金を出していく必要があると思う。

森林の保護は、現在も行われている。また、森林が減少している以上、今後、森林のさらなる保護が必要になってくるだろう。しかし、森林の保護には様々な問題もある。しかし、そのような問題を乗り越え今後も森林の保護が進んでいく必要があると思う。今、行われている森林の保護には、様々なものがある。エコラベルの導入によって、合法に伐採された木材の市場価値を高めるものや、様々な造林事業などが行われている。エコラベルについては、様々な認証機関が出てきており、欧米やカナダなどで広域にわたって森林認証が行われている。しかし、最も森林が減少している熱帯雨林では認証が進んでいない状況である。その原因としては、認証をしてもらうのに多額の費用がかかる為、熱帯雨林を多く保有している発展途上国にとってその費用の負担が大きいことや発展途上国には認証制度を得る為に必要なだけの厳格な法制度がない事などがあげられる。しかし、問題が認証費用の大きさよりも、認証を受けたことによるインセンティブが、そこまではっきりとしないことにある。もし、認証を受けた木材が市場である程度高く取引をされるようなことがあれば、多少の認定費用を払ってでも認証を受けようとすると思われる。しかし、現状では、環境に優しい商品であることを訴えることで、消費者の購買意欲を高める程度の効果しか発揮していない。認証を得た木材も、認証を得ていない木材も材質的には変わらないので、わざわざ認証材を選んで買うというような消費者の動きは見られない。また、認証には、更新が必要で定期的に森林経営の仕方をチェックしてもらわなければならない。この更新費用も安くないため、認証材の方が、生産コストが高くつくことになる。この認証材の制度の効力を高めるためには、国レベルで、認証材以外の木材の輸入、消費を禁止するような法律を作る必要があると思う。また、小規模な林家のために、低金利でお金を貸すような制度も付随して実行していく必要があると思う。その他の森林保護の代表的な例には造林があげられる。しかし、造林にも様々な問題がある。何もない荒廃地に造林していく場合には、環境の側面からしても、木材資源の増産という面から見ても評価できる。しかし、現実には産業植林の一部は、天然林が広がる森を伐採し火つけを行い、植林地を作るというようなことが行われている。これにより、もともとあった天然林の生態系が失われるばかりでなく、植林地を作るために行われた火つけによる火が周囲の天然林に燃え移り、広大な面積の天然林を燃やしてしまうことがよくある。このように植林が環境破壊につながっていることもある。新たな植林は、もともとあった自然を壊さないように行うべきであり、そのチェック体制をしっかりと作っていく必要がある。また、植林は時に森林に住む住民にとって被害をもたらす場合がある。持続的な焼き畑農業を行ってきた住民たちにとって、慣習的に利用してきた土地や森林を合法的にでも植林地に変えられることは、急激な生活の変化を強制するものである。慣習的に利用してきた土地を植林地に変えられた場合には人々は、植林事業の労働者として働くか、その土地を出ていくかを選ばなければならない。たとえ、植林事業の労働者として雇ってもらえたとしても、植林事業が終われば解雇されるケースが多く、持続的でない場合が多い。このような現地住民の生活を脅かすような植林事業は行われてはならない。だれも住んでいない土地での植林をすることを法律で明確に規定し、その法律をしっかりと守っていく必要がある。また、中国の退耕還林の例でみられるように、植林事業の為に補助金をだしたとしても、植林事業だけで住民は一生食べていくことはできず、補助金がもらえなくなる年になったら、一転して今まで植林してきた木々を伐採し売りに出し、その土地でまた、農業を行う農民が出てきてしまう。これでは、せっかく行った造林事業が無駄になってしまう。この様な事態を防ぐためにも、中国政府は、造林した森を伐採することなく継続的に生活していけるような仕組みを造林事業に参加した農民たちに示すべきである。このように、森林を保全する事業にも様々な問題点がある。森林保全を行う為には、もともとあった自然を壊さないことや、現地住民の生活を壊さないことなどの注意点を守って行われるべきである。

このように、地球環境を守るために森林の保護は非常に重要な問題である。ただ、その保全には様々な問題がある。だが、その様な問題を克服して全世界が森林の保護に向けて取り組まなければいけない時期に来ていると思う。今までは自然の恩恵を一方的に得てきたわけだが、これからは守るべき天然林はしっかりと保全すると同時に荒廃地への造林を行っていくべきである。また、建築材やパルプとして消費する木材を定置農業のように持続的に生産できる仕組みを作っていくべきである。

参考文献

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2.井上真 編 「アジアにおける森林の消失と保全」

3.井上真 「熱帯雨林の生活~ボルネオの焼畑民とともに~」(築地書館)

4.小川房人「地球規模の環境問題Ⅱ」

5.宮崎林司 「あなたにもできる地球を救う森づくり」(協同出版)、2004

6.宮崎林司 「地球に生き残るために~あなたにもできること~」(株式会社ビーボコーポレーション)、2007

7.小池考良 「植物生態学」(朝倉書店)、2004

8.ビョルン・ロンボルグ  山形浩生訳 「環境危機をあおってはいけない・地・球環境の本当の真実」、2003

9.湯本貴和 「熱帯雨林」(岩波書店)、1999

10.井上民二 「熱帯雨林の生態学」-生物多様性の世界を探る-(八坂書房)、2001

11.依存良三 編著 「破壊から再生へアジアの森から」(日本経済評論社)、2003

12.地球環境保全への途~アジアからのメッセージ~ 寺西俊一、大島堅一、井上真 (有斐閣選書)

13.2007年度 地球環境大学―東京講座 「変貌する地球環境」~私たち人類の未来を考えよう~ 2007年9月29日、30日

14.武田邦彦 「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」(洋泉社)、2007

15.日高敏隆 「子供たちに語るこれからの地球」(講談社)、2006

16.矢沢潔 地球温暖化は本当か?(技術評論社)、2007

17.田中優 「戦争って、環境問題と関係ないと思ってた」岩波ブックレットNo.675(岩波書店)、2006

18.槌田敦 「CO2温暖化説は間違っている」(ほたる出版)、2006

19.石田正美 「インドネシア再生への挑戦」(アジア経済研究社)、2005

20.松井和久 「インドネシアの地方分権」 (アジア経済研究社)、2003

21.ジェームズ ラブロック 「ガイア-地球は生きている」、2003

22.ジェフリー・ヒール 「はじめての環境経済学」(東洋経済新報社)、2005

23.ジョン・F・オーツ 「自然保護の神話と現実」(緑風出版)、2006

謝辞

 この卒業論文を作成するにあたって、協力をしてくださいました皆様に心からお礼申し上げます。まず、インドネシアでの現地研究や日頃の指導をしてくださいました先生にお礼申し上げます。また、インドネシアの熱帯雨林を調べるためにいろいろと手伝ってくれたダルマ・プルサダ大学のドゥイには本当に感謝しています。それから、ジャンブールの熱帯雨林まで車で送ってくれ、研究の手伝いもしてくれたリドとリリにお礼申し上げます。

 また、インドネシアに行く前に、インドネシアでの研究についての相談に乗ってくださった(株)ビーボコーポレーションの社員の皆様、インドネシア料理店「ジャランジャラン」のスタッフの皆様にお礼申し上げます。

 最後に、林業の仕事を通して、森の管理や保護など森林について様々なことを丁寧に教えてくださった(有)川又林業の川又正人さんや関係者の方々に心よりお礼申し上げます。


[1] 小池考良『植物生態学』(朝倉書店)、2004、P.362

[2] 栄養塩とは無機養分とも呼ばれ、窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、硫黄などの微量栄養素の事を言う Wikipedia フリー百科事典(2008.2.24) (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%84%E9%A4%8A%E5%A1%A9

[3] 同上書、P.361

[4] 寺島一郎 『植物生態学』(朝倉書店)、2004、P.20―22

[5] ビョルン・ロンボルグ (山形浩生)訳 『環境危機をあおってはいけない・地球環境の本当の真実』、2003、 P.424―425 

[6] 寺島一郎 前掲書 P.22

[7] ジェフリー・ヒール 『はじめての環境経済学』(東洋経済新報社)、2005、P.28―29

[8] 彦坂幸毅 『植物生態学』(朝倉書店)、2004、P.42―44

[9] 小池考良、前掲書、2004、P.379―380

[10] 小池考良、前掲書、2004、P.381―382

[11] 萩野和彦『地球規模の環境問題Ⅱ』、1990、P.25―26

[12] 宮崎林司 『あなたにもできる地球を救う森づくり』(協同出版)、2004、P.137―141

[13] ジェフリー・ヒール、前掲書、2005、P.116

[14] 「京都議定書目標達成計画」 http://www.env.go.jp/houdou/gazou/5937/6699/2278.pdf

[15] ジェフリー・ヒール、前掲書、P.117―122

[16] 「朝日新聞」 2008年1月3日  朝刊 P.2

[17] 同上紙 2008年1月3日  朝刊 P.2

[18] ジェフリー・ヒール、前掲書、P.122―127

[19] 「朝日新聞」 2008年1月3日 朝刊 P.1

[20] 同上紙 2008年1月3日 朝刊 P.2

[21] 小池考良、前掲書、P.379

[22] 他の土地利用としては農業を想定しており、果樹園などが除かれる。しかし、ゴム園、コルクガシなどは木材生産目的があると判断されるので含まれない。 永田信 「森林資源の現状と森林の消失」 井上真 編 『アジアにおける森林の消失と保全』、P.14―16

[23] 小池考良、前掲書、P.379

[24] 宮崎林司、前掲書、2004、P.135

[25] 萩野和彦、前掲書、1990、P.25

[26] 地球上の気候は、低緯度から高緯度に向かって、熱帯、亜熱帯、温帯、亜寒帯、寒帯、冷帯と暑い気候から寒い気候へ気候帯が帯状に分布している。さらに熱帯地域は降水量の多いほうから順に、熱帯雨林、熱帯季節林、サバナ、ステップ、砂漠というように分類できる。 

[27] 湯本貴和 『熱帯雨林』(岩波書店)、1999、P.22

[28] 小川房人 『地球規模の環境問題Ⅱ』P.35

[29] 湯本貴和 『熱帯雨林』(岩波書店)、1999、P.22

[30] 井上民二 『熱帯雨林の生態学~生物多様性の世界を探る~』(八坂書房)、2001、P.56

[31] 熱帯では日射が強いため月降雨量が100ミリを切ると蒸散のほうが降雨量よりも大きくなり水収支がマイナスになる。水収支がマイナスになる時期を乾季と呼ぶ。

[32] 湯本貴和 「熱帯雨林」(岩波新書)、1999、P.24

[33] 井上民二、前掲書、2001、P.56―57

[34] 井上民二、前掲書、2001、P.61―62

[35] 井上民二、前掲書、2001、P.30

[36] 湯本貴和、前掲書、1999、P.50

[37] 同上書、P.53―54

[38] 同上書、P.22―23

[39] 井上民二、前掲書、2001、P.15

[40] 湯本貴和、前掲書、1999、P.25―27

[41] 同上書、P.25―27

[42] 同上書、P.25―27

[43] 永田信「森林資源の現状と森林の消失」井上真 編 『アジアにおける森林の消失と保全』、P.14―16

[44] 同上書、P.22―23

[45] 同上書、P.25―26

[46] 萩野和彦、前掲書、P.27

[47] 同上書、P.27

[48] 同上書、P.17―22

[49] 井上真 『コモンズの思想を求めて』、(岩波書店)、2004、P.20―30 

[50]  小川房人、前掲書、P.30―32

[51] 岡本幸江「違法伐採のメカニズム」井上真 編 『アジアにおける森林の消失と保全』 P.151

[52] 伐採業者と海外の関連木材加工業者との間で行われ、通常より安い価格で販売したり、通常より高い価格で購入することにより、税金の負担を軽くする方法。

[53] 岡本幸江、前掲書、P.150 

[54] 「朝日新聞」 2008年1月6日 P.5

[55]  慣習共同体の認定は政令に基づく地方条例で定めるとされている。

[56] 岡本幸江、前掲書、P.152―153

[57] 同上書、P.154

[58] 岡本幸江、前掲書、P.154―157

[59] 斎藤哲也、井上真 「熱帯植林と地域住民との共存」依光良三 編著 『破壊から再生へアジアの森から』(日本経済評論社)、2003、P.34―35

[60] 同上書、P.44

[61] 同上書、P.43

[62] 関良基 「森林再生への模索」寺西俊一、大島堅一、井上真 編 『地球環境保全への途~アジアからのメッセージ~』(有斐閣選書)、2006、P.96

[63] 宮崎林司「あなたにもできる地球を救う森づくり」(協同出版)、2004、P.95

[64] 岡本幸江、前掲書、P.158―164

[65] 宮川秀樹「森林火災の現状と対策」井上真 編 『アジアにおける森林の消失と保全』 P.169―170

[66] 同上書、P.178

[67] 同上書、P.181

[68] 同上書、P.170―174

[69] 斎藤哲也、井上真、前掲書 P.37―39

[70] 「朝日新聞」 2008年1月6日 P.5

[71] 岡本幸恵「アブラヤシの農園拡大政策の問題点」井上真 編 『アジアにおける森林の消失と保全』P.184―187

[72] 同上書、P.187―188

[73] 同上書、P.193

[74] 同上書、P.194―195

[75] 同上書、P.197

[76] 永田信、前掲書、P.17

[77] 同上書、P.20

[78] 立花敏、根本昌彦、美濃羽靖「森林認証制度の可能性」井上真 編 『アジアにおける森林の消失と保全』P.280―281

[79] 同上書、P.280―281

[80] 同上書、P.280―281

[81] 同上書、P.280―281

[82] 同上書、P.280―281

[83] 同上書、P.285

[84] 斎藤哲也、井上真、前掲書、P.26―27

[85] 同上書、P.24―25

[86] 同上書、P.31―33

[87] 同上書、P.29

[88] 同上書、P.25―26

[89] 同上書、P.26

[90] 同上書、P.36-37

[91] 同上書、P.48―50

[92] 同上書、P.51

[93] 同上書、P.55―56

[94] 日浦啓全、依光良三「緑のダム再生と地域の力―四万十川源流域梼原村の試み―」依存良三 編著『破壊から再生へアジアの森から』(日本経済評論社)P.250 

[95] 同上書、P.252

[96]中根周歩、姫野雅義「吉野川第十堰問題から緑のダムへ」依存良三 編著『破壊から再生へアジアの森から』(日本経済評論社)、2003、P.226―245

[97] 向虎、関良基「中国退耕還林と貧困地域住民」依存良三 編著『破壊から再生へアジアの森から』(日本経済評論社)、2003、P.150-151

[98] 同上書、P.152―153

[99] 同上書、P.153―154

[100] 同上書、P.155

[101] 同上書、P.156

[102] 同上書、P.156―157

[103] 同上書、P.157

[104] 同上書、P.162―166

[105] 同上書、P.167

[106] 同上書、P.167

[107] 同上書、P.169

[108] 同上書、P.174

[109] 同上書、P.174―177

[110] 同上書、P.158-159

[111] 同上書、P.170

[112] 同上書、P.169

[113] 同上書、P.170

[114] 同上書、P.174

[115] 同上書、P.202-203

[116] 同上書、P.181-184

[117] 同上書、P.193-196

[118] 同上書、P.196-198

[119] 同上書、P.203―204

[120] ジェフリー・ヒール、前掲書、P.127―129

[121] ジェフリー・ヒール、前掲書、P.114

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